"義母の葬儀で消えた妻と百八十万" 第6話
い残すことなんて、何つなかったはずです」 ビール瓶を片に親戚の輪ので堂々と語る正の言葉に、俺は喉元までかかった号を必に押し殺した。 嘘だ。義母が息を引き取ったその神聖な瞬、病にいたのは俺と由のだけだった。病院からの危篤の報せを受け、夜に正の携帯へ何度も何度も着信を入れたにもかかわらず、正が級を乗り回して病院に現れたのは、義母の拍が止し、護師によって化粧が施された、実にも経ってからのことだったのだ。 「本当に派なお母様でしたわ。私たちも、お母様のように周囲から敬われるき方をしていかなければと、主と誓いいましたの」 直子の滑らかな弁舌に、親戚連は「さすがは男夫婦だ」「派な跡取り息子を持ってお母さんも幸せだったろう」としたように相槌を打っている。彼らの吐きす言葉のつひとつが、まるでたいのように俺のを汚していった。
通夜振るいの酒宴も半ばを過ぎた頃、ふらりと席をった正が、グラスを持ったまま俺の背へと忍び寄ってきた。 「おい、健太郎君。ちょっといいかい」 元で囁かれた躾な声に、俺は背筋を張らせながら振り返った。 「……はい、何でしょうか」 「の告別式の段取りだけどさ、受付や葬への移の配、抜かりはないだろうね? 粗相があって恥をかくのは、男である俺なんだからさ」
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「ええ、葬儀社の方と綿密に打ちわせをしてあります。滞りなくむはずです」 「そうか。……あ、それとさ」 正は周囲をチラリと警戒するように見回すと、声を段く落とし、酒臭い息を俺の顔に吹きかけてきた。 「母さんの、遺産の件なんだけどね」 俺はを疑った。美代子さんの骸がまだめやらぬ通夜の席で、実の息子が最初に切りしてきたのが「」の話だったのだ。 「……正さん。今はまだ、そのようなお話をするではないといますが」 「何を言ってるんだよ、健太郎君。遺産分割なんてものは、ければいほどいいに決まってるだろうが。から親戚連が嗅ぎつけて揉め事にでもなったら面倒だろ? 母さんがどれだけの現を残しているのか、産はどうするのか、今のうちに男の俺ときちんと話しっておくのが筋ってもんだろう」 目のでギラギラとした欲望を隠そうともしない正の瞳を見て、俺は背筋に氷を突きてられたような寒気を覚えた。母親の通夜という厳粛な祈りのにおいてさえ、この男ののを支配しているのは、ただ自分自の銭欲だけだったのだ。
夜を回り、ようやく親戚たちが々々引き揚げていった、斎の控での告別式の最終確認をしていたのことだ。 残っていた正が、コートを羽織りながら、何わぬ顔で俺たちに歩み寄ってきた。
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「そういえばさ、健太郎君。母さんのんでた実のマンションの鍵、おたちが持ってるよな?」 俺は咄嗟に構え、眉根を寄せた。 「ええ、介護のために預かっていましたが……なぜ今、それを?」 「いやさ、の告別式で何か急に必な遺品がてくるかもしれないとってね。ほら、遺の写真だって、今選んであるやつより、もっと若くて綺麗な写真がアルバムのにあるかもしれないだろ? 直子もそう言ってるんだ」 背で直子が、猫撫で声で頷いてみせる。 「そうですわよ。お母様のためをえば、もっと良いお写真を選び直してあげた方がよろしいんじゃありませんこと?」 の瞳の奥に潜む、獲物を狙うハイエナのような鋭いを、俺は見逃さなかった。なぜ、通夜が終わったこの夜に、急に部の鍵を欲しがるのか。 「……遺の写真は、すでに決定しています。の義母が番気に入っていた、のに由とでお見にったの笑顔の写真です。あれ以のお写真はございません。鍵をお渡しする必はありません」 俺がきっぱりと言い放つと、正は舌打ちをしそうになるのを堪え、苦々しい表を浮かべた。 「……ふん、まあいいさ。それならそれで構わないがね」
その夜、疲れ果てて自宅へと帰り着いた俺と由は、リビングの灯りのでい沈黙に包まれていた。