"断髪の夜に消えた七年目の花嫁" 第12話
「お義父さん……俺もきます。織に直接謝りたいんです。指輪も返されましたが、式はやり直せます。俺たちにはの絆があるんです。あいつが俺を本当に捨てるはずがありません!」
翌の午。関支社が入る層ビルのエントランスホール。 打ちわせを終えて同僚たちと談笑しながらエレベーターホールへ向かっていた織のに、見慣れたの姿が現れた。昭男と佳代子、そして修平だった。
「……織」
昭男が掠れた声で呼び止めた。 織はち止まり、静かに線を向けた。その瞳には、揺もりもなく、ただ端のを見るような徹なだけが宿っていた。
同僚の女性が配そうに囁く。
「林さん、おりいですか?」
「……ええ。しだけ失礼します。先に戻っていてください」
織は同僚たちをエレベーターへ見送ると、に向き直った。
「何か用ですか」
「親に向かってその態度はなんだ」
昭男がわずいつもの調子で声を荒らげそうになり、ハッとしてをつぐんだ。
「……いや、すまん。とにかく、おの部へこう。話はでゆっくり――」
「無理です」
織は即座に拒絶した。
「あなたたちに教える所はありません。話があるなら、あそこのカフェで分だけです。それ以は仕事がありますので」
オフィスのにあるカフェのテラス席。 佳代子は震えるで、持参した袋をテーブルのに差しした。
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「織……これ、お菓子を持ってきたのよ。あんた、昔これが好きだったでしょう? 美結のことは、パパからもきつく叱ったわ。でも、急にていくなんて驚いたのよ……。っているなら、気が済むまで私たちを叩いたっていいから……ね? 帰ってきて、修平さんとの式もやり直しましょう?」
織は袋を瞥もしなかった。
「私がをたのは、髪を切られたからだけではありません」
織の静かな声が、テーブルのにたく落ちた。
「の文化祭で制に棒猫とかれた、あなたたちは耐えろと言いました。学の卒業論文と推薦類を隠された、次があると言いました。修平のご両親に会う、いワンピースにを塗られた、悪気はないと言いました。そして今回、伸ばした髪を根元から切られた。髪なんてまた伸びるからいいじゃないと、あなたたちは笑いました」
織はまっすぐに両親と修平を見据えた。
「髪は伸びるかもしれません。でも、あなたたちに奪われ、踏みにじられた私のあのは、どうやってやり直すのですか? 私が流した涙と、惨めさに耐え続けたは、誰が返してくれるのですか?」
昭男の目から、涙がこぼれ落ちた。
「織……そこまで考えてやれなくて、父さんが……父さんが悪かった……」
「毎回そうでしたね。そうやってから形だけ謝って、私の気持ちなんて度も真剣に考えたことはなかった。
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……もう帰ってください。度と私のに現れないで」
織はちがり、伝票をに取った。 修平が慌ててちがり、織の腕を掴もうとした。
「待ってくれ、織! 分でいい、俺とだけで話させてくれ!」
織はたくそのを払い除け、腕計に線を落とした。
「からな会議があります。あと分です。にどうぞ」
カフェのの広へ移すると、修平は必の形相で織に縋り付いた。
「織、髪のことは本当に悪かった! ワンピースのこともだ! あのは本当に、ただ族と仲良くしてほしくて、冗談のつもりだったんだ! 直すから! これからは美結ちゃんが何かしても俺が絶対に止める! 君の嫌がることは度としない! もう度だけチャンスをくれ!」
織は乾いた笑みをさく漏らした。
「修平。私が番絶望した理由、本当に分かっていないのね」
「直すって言ってるだろ!?」
「違うわ。あなたはね、『私が絶対にれていかない』とを括っていたから、あんな残酷なことができたのよ」
修平の表が凍りついた。
「髪が私にとってどれほど切かをっていたから、美結に切らせた。両親への挨拶がどれほど事かをっていたから、スカートを汚させた。私が泣いた、結局は耐えてあなたを許す都のいい女だと分かっていたから、私の尊厳を切り売りして楽しんでいたんでしょう?」