"あの道は、学校へ続いていなかった" 第12話
私が震える声で尋ねると、澄さんはし誇らしげに顎をげた。
「姉がね、諦めなかったんです。私がをさなくなったのを審にって、京の権団体と弁護士を連れて、警察の監察官と緒に乗り込んできてくれたの」
それは、方の閉鎖な秩序が、部の法と制度によって打ち砕かれた瞬だった。
「主は、最まで『庭内の問題だ』って喚いていましたけどね。弁護士さんが類を突きつけたら、言も返せなくなったわ。……私はそのままに乗せられて、あの町をました。それっきりです」
澄さんは茶をみ干した。
「もう、以のことです。私は今、ここでさなお惣菜のパートをしながら、静かに暮らしています。誰にも邪魔されず、自分で鍵をけて、好きなにへられる活です」
彼女は背筋を伸ばし、窓のの並みを見つめた。
そこには、被害者としてのはなかった。
自らのでを取り戻した、のい活者の姿があった。
「森田さん」
澄さんが、穏やかな声で言った。
「あのは、もう壊していいんですよ」
私は顔をげた。
「お父さんのなんでしょう? 売って、綺麗にしなさい。あんな所に、いつまでも過を縛り付けておく必はありません」
「……いいんですか」
「ええ」
澄さんは微笑んだ。
「私ののあのは、もうとっくに終わっていますから」
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実に戻ったのは、翌週の曜だった。
私は居で待っていた産と、介護施設の担当者ので、委任状に実印を押した。
父は隣で、何も言わずにそれを見ていた。
私が澄さんに会ってきたことも、彼女が何を言ったかも、父には言も話さなかった。
話す必はなかった。
この男が背負うべき罪は、この男自の孤独ので、静かに朽ちていけばいい。
「森田さん、それでは事を再しますね」
業者の男が類を鞄にしまい、ちがった。
私は作業着に着替え、解体現へ向かった。
れの空の、型のが唸りをげていた。
青いトタン塀に、巨な鉄の爪が突きてられた。
バリバリと、属が引き裂かれる凄まじい音があいに響き渡る。
、私とあのを隔てていた壁が、あっけなく屑のように引き倒されていく。
埃がいがり、が遮られていた面に、容赦のないが注ぎ込まれた。
私は、かつて自分が毎朝歩いていた、アスファルトの残骸のにった。
塀がなくなったことで、界が気にけた。
息が、止まった。
そこから見げた、佐野邸の階の窓。
かった。
子どもの頃、あんなにもく、く見えていた階の窓が、驚くほど目のにあった。
距にして、わずか、メートル。
の歩幅なら、歩も歩けばが届くようなさだった。
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を伸ばせば、窓枠に触れられそうだった。
庭の垣を抜け、、歩を踏み入れれば、そこはもうの玄関だった。
が、本気でを踏みしていれば。
あの錆びた引き戸を力任せに引くか、声で名を呼ぶか、あるいはのの公衆話へっていれば。
わずかメートルの距を、誰も歩かなかったのだ。
父も、角田も、所のたちも全員が。
この、唾が届くほどの距にのが閉じ込められ、血を流しているのをりながら、誰としてこのメートルを跨ごうとはしなかった。
の破砕が、階の窓枠に喰らいついた。
ベニヤ板が弾けび、腐った枠が々になって宙をった。
奥の部が、のに晒された。
剥がれ落ちた壁。
に散らばったガラスの破片。
埃まみれの、何もない畳。
から吹きろすたいが、遮るもののなくなった空を、気に吹き抜けていった。
溜まり続けていた、湿った黴と埃の匂いが、に乗って散っていく。
「お客さん、危ないですからがってください!」
作業員の鳴り声が聞こえた。
私は歩、ろへがった。
靴底ので、古いがジャリリと鳴った。
作業員がを止め、汗を拭いながら私に笑いかけた。
「いやあ、綺麗さっぱりなくなりましたね。ここ、昔は本当にが通ってたんですか?」
「ええ」
私は空を見げた。
抜けるような、どこまでもい青空だった。
「通っていましたよ」
「へえ、物好きなもあったもんですね」
作業員は再びエンジンをかけ、瓦礫のを押しし始めた。
私は最にもう度だけ、空っぽになった階の空を見つめた。
壁も、窓も、根も、もうすぐすべて消える。
だが、私には分かっていた。
これから先、京の満員に揺られているときも、オフィスのデスクで類をめくっているときも。
毎朝分が来るたびに。
私はあの、メートル先から見ろしていた、助けを求める線のにち続けるのだ。
誰の助けも呼ばず、ただ無邪気にを振り返していた、あのたい朝ののに。