"「部屋はどこでも同じ」と1800万奪った息子の妻" 第12話
「美のやつ、自分の母親から『もう度と敷居を跨ぐな』って言われて、今はビジネスホテルに引きこもって泣いてるよ! あいつの実はもう終わりだ! だから母さん、あいつのことはもういいだろ!? 俺と母さんで、もう度やり直そうよ!」
吐き気がした。
妻が自分を裏切っていたは激し、妻が実から見捨てられたとるや、今度はすべての罪を妻に押し付けて、自分だけ母親の元へ逃げ込もうとしている。
育ててきた息子が、これほどまでに卑しく、醜い男だったとは。
「美さんのことはもういい?」
私は乾いた声で繰り返した。
「ええ、そうね。美さんには美さんの弁護士を通じて、きっちり責任を取ってもらうわ。……でもね、健」
私はドアの隙から、枚の複写式の類を差しした。 今、杉先の事務所で作成してもらった、民事調の申通と、債務承認弁済契約のドラフトだった。
「あんたが使った分のも、円単位で計算してあるわ。残りの百万円のうち、あんたたちの活費とあんたのカード返済に消えた百万円。これはあんた自の借よ」
類の文字を見た瞬、息子の顔から血の気がサーッと引いていった。
「な……んだよこれ……。俺にも……払えって言うのかよ……?」
「当たりでしょう。あんたが消費したんだから」
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「ふざけるなよ! 俺はあんたの実の息子だぞ!? なんで母親に借を返さなきゃいけないんだよ! 親が子の面倒を見るのは当然だろ!」
ついに本性を現した。 窮に追い詰められた獣のように、息子は目を血らせて叫んだ。
「あんたには遺族があるだろ! このボロアパートでで細々と暮らしていくだけなら、なんてそんなに使わないじゃないか! なんで俺をここまで追い詰めるんだよ! 俺の料を差し押さえる気か!? 会社にバレたら、俺はどうなるんだよ!」
ドアチェーンが、ガチャンと音をてて震えた。 息子がからドアを力任せに押しけようとしていた。
恐怖はなかった。 ただ、目のにいる怪物が、かつて自分が腹を痛めて産み、慈しみ育てた赤ん坊の成れの果てだという事実に、い絶望と憐憫のが湧きがるだけだった。
私はドアの隙越しに、息子をまっすぐに見据えた。 その瞳には、筋の迷いもなかった。
「健」
私の声は、夜の気配を切り裂くように静かだった。
「あんたがどうなろうと、私のったことではありません」
息子のきが、ピタリと止まった。
「あんたはんだ私のを奪い、私をリビングのに捨てた。あの、あんたは母親を捨てたのよ。なら、私もあんたを息子だとうのをやめました」
「か……母さん……」
「の朝までに、その契約に署名捺印して弁護士事務所に持参しなさい。
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さもなければ、簡易裁判所に調を申して、与の仮差押えの続きに入ります。会社にられたくないなら、自分ので来なさい」
「待てよ! 母さん! 頼むから……母さんッ!」
息子の絶叫を遮るように、私はバタンと音をててドアを閉めた。
カチャリ、と鍵を回す。 続いて、いドアチェーンを掛け直した。
からは、狂ったようにドアを叩く音と、息子の泣き叫ぶ声が響き続けていた。 だが、その音はもう、私のの奥には届かなかった。
私は暗い玄関にち尽くし、く、く、息を吐きした。 の歳が、音をてて崩れっていく。 痛まないはずがなかった。 胸の奥が焼き切れるようにく、苦しかった。
だが、私は度も振り返らなかった。 畳のワンルームのかりをつけ、たくなったやかんをにかけた。
青い炎が、静かに揺れていた。
翌朝のちょうど。 弁護士事務所の自ドアがいた、そこにっていた男の姿を目見て、私はわず息を呑んだ。
昨晩の狂乱が嘘のように、息子の健はさく縮こまっていた。 目のには濃い隈が落ち、無精髭が顎を覆っている。 には、昨夜私がドアの隙から渡した類の封筒が、くしゃくしゃに握りしめられていた。
応接の机を挟んで、私と息子が向かいう。 同席した杉弁護士が、く落ち着いた声でを切った。
「健さん。類はお読みいただけましたね」