"台所へ追いやられた娘婿が、大晦日に義母を連れ去った夜" 第11話
さらに、代わりの配送業者を配できず、納品の遅延が頻発。 老舗旅館グループからは正式に契約解除と違約の請求が届き、内の堅も次々と取引を見直し始めていた。
「話番のババアがいなくなっただけだ」と、夫は社員たちので嘯いていたらしい。 「あいつがやっていた仕事など、誰にでもできる。俺が築いた板にを塗る奴は全員クビだ」
そう鳴り散らしていた夫が、まさか自分の娘婿に背から刺されるとはってもみなかっただろう。
女の美子の夫――内でを展している会社経営者が、きしたのはの終わりだった。 会社の資繰りが逼迫し、からの期借入枠を使い果たしかけていた夫に対し、美子の夫は「支援」の名目で巧妙な契約を差ししてきたのだ。
自社が設するたな物流子会社への、産の優良取引先と蔵倉庫の無償移管。 事実の、骨抜きによる乗っ取り。
「お義父さん、もう潮ですよ。これ以赤字を垂れ流すに、うちの傘に入れば板だけは守ってあげますから」 そう言い放たれた瞬、夫は激昂し、応接の皿を投げつけたという。 そしてそのの夕方、夫は事務所のに倒れ込んだ。
過性脳虚血発作。 幸い命に別状はなかったものの、そのまま内の総病院の特別病棟へ運び込まれた。
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そのの夜過ぎ。 アパートのドアが、慮がちに、さくノックされた。
コン、コン。
かつて真紀や美子が蹴破るように叩いた音とは、まるで違う。 のぞき穴を見ると、コートの襟をて、肩をすぼめた女の理恵がっていた。 化粧は落ち、目のには濃い隈が張り付いている。
チェーンをかけたまま、ドアをしけた。
「……お母さん」
たい隙の向こうで、理恵の声がかすかに震えていた。 かつて私のでふんぞり返り、「会社のことはお父さんに任せておけばいいのよ」とを括っていた、あの勝気な娘の面はどこにもなかった。
「お父さんが倒れたのは、っているわね」
私が静かに言うと、理恵はぽろぽろと涙をこぼした。
「……うん。病院、ってきた。識はあるけど、がうまくかなくて……ずっと『を呼べ、はどこだ』って、うわ言みたいに叫んでる」
「そう」
「美子姉さんたちが、ひどいの」
理恵は袋を握りしめ、えた廊でしゃがみ込みそうになった。
「お父さんが倒れた途端、姉さんの旦が会社のメインバンクに乗り込んできたのよ。『社はもう経営判断ができない。倉庫と顧客リストをうちの会社に譲渡する仮契約がある』って、嘘の類を突きつけて……! お父さんの実印を持ちそうとした美子姉さんと、事務所で取っ組みいになったの」
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廊に、理恵の押し殺した嗚咽が漏れる。
「私、何もできなかった……。会社の帳簿を見ても、どの契約が本物で、誰が方なのか、全然分からなくて……。お母さんが毎、何と戦っていたのか……私、何にもらなかったの……!」
世体と父親の威にぶらがり、母親の労働を「族だから当たり」と搾取してきた娘たちが、盾を失った途端に共いを始めている。 れみよりも先に、い虚しさが胸を満たした。
私はチェーンをした。
「入りなさい。お茶が入っているわ」
理恵は靴を揃え、おずおずと畳の畳のにがった。 湯呑みからちる湯気をじっと見つめながら、両で包み込むようにして啜る。 その仕は、幼い頃、をしたに私が枕元でませた湯を啜っていた姿となった。
「理恵」
「……なに、お母さん」
私は押入れの奥から、冊のい黒革の帳を取りし、座卓のに置いた。 私が独した個事務所をちげた、から記録し続けている、取引先ごとの「信用の裏帳簿」だった。
「美子の夫の会社は、資繰りが決して良くないわ。のから、系列の居酒チェーン舗の仕入れ代をヶ遅れでジャンプさせている。帳簿の未収細を見れば、うちの会社に対する焦げ付きが千百万あるはずよ」
理恵が目を見いた。
「え……千百万!?」
「お父さんは自の婿だからと、その支払いの督促を握りつぶしていたの。美子の夫が狙っているのは、会社の再建じゃないわ。