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"台所へ追いやられた娘婿が、大晦日に義母を連れ去った夜" 第6話

「ありがとう、健司さん」

私は膝ののボストンバッグを撫でた。 には、使ってきた私の印鑑と、しい賃貸契約が入っている。 清の港にい、当たりのいいさな軒の部。 誰の嫌も伺わず、誰の指図も受けず、自分で選んだお茶を淹れてむための、私のしい。

フロントガラスの向こう、名速の灯が、まっすぐに夜のを切り裂いていた。

 

元旦の朝。 目が覚めたとき、部のがあまりに静かで、瞬だけ息が止まった。

いつもなら、午半。 凍てつく板のに素でち、の祝い膳とお雑煮の仕込みに追われていただ。 夫の鳴り声。 酒の匂い。 「汁がい」「蒲鉾の切り方が揃いだ」という罵倒。

それが、何つ聞こえない。

見げた井は、見慣れた座敷の太い梁ではなく、い目調のクロスだった。 清の港にい、築のアパート。 畳と畳半の、さな。

起きがり、台所で薬缶にをかける。 青いガスが、静かにシュウシュウと鳴る。 急須に茶葉を入れ、分のお湯を注ぐ。

湯呑みからちる湯気を吸い込んだ瞬、に、両肩の力がすとんと抜けた。 、ずっと鉛を詰め込まれていたような背が、嘘のように軽い。

私は、自分の選んだお茶を、誰の指図も受けずにんでいる。 たったそれだけのことが、胸の奥をじんわりと痺れさせた。

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その静寂を切り裂くように、座卓のに置いたスマートフォンがけたたましく震え始めた。 画面には、女の理恵の名。

昨夜から、着信履歴はすでに件を超えていた。 夫から、理恵から、そして女の真紀から。

私は湯呑みを置き、く息を吸ってから、緑の通話ボタンをスライドさせた。

『……お母さん!? やっとた!』

受話器の向こうから、鳴にい声が鼓膜を突き破ってきた。 事務所の受話器のベルが何台もなって鳴り響く音と、男たちの号がかすかに混ざっている。

『お願いだから話を切らないで! 会社が、もうめちゃくちゃなの!』

「おはよう、理恵。お雑煮はべたの」

『そんな呑気なこと言ってるじゃないでしょ!!』

理恵のヒステリックな叫びがね返る。

『田の仲買も、焼津の主も、みんな「さんを通していない注文は受けられない」って突っ返してくるのよ! お父さんが鳴り込んでも、「契約は切れたと聞いている」「あんたの指図じゃ匹もせん」って払いされたの!』

「そう。昨ので、私の事務所の業務委託契約は満したものね」

『契約って何よ! 族の会社じゃない!』

理恵の声が荒くなる。

『伊豆の旅館グループだけじゃないのよ。静岡内の料亭からも、美子姉さんの旦さんのホテルからも、朝番で催促の話が鳴り止まないの! 代替の仕入れ先を探そうとしたら、元旦の特別数料で普段の倍の現を求されて……今の午に魚が届かなきゃ、損害賠償で会社がパンクするって専務が抱えてるのよ!』

元の茶柱が、ゆっくりと揺れていた。

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理恵は、何も分かっていない。 会社が回っていたのは、夫のカリスマ性でも、資本力でもない。 「産なら、あのさんがをかぶってでも確実に帳尻をわせてくれる」 、だらけの靴を履いての片隅を歩き回り、頑固な男たちとをげって築いた、私個への信用。 その信用のに、夫の「に乗ったような経営」がただ乗っかっていただけなのだ。

「理恵。私の机の番の引きしに、業務引継があるはずよ」

『あんな切れ、何の役にもたないわよ! 話番号がいてあっても、相が話を聞いてくれないんだから!』

「当たりでしょう」

私は静かに言った。

「信用は、引き継ぎ類の文字みたいに、誰かにポンと渡せるものじゃないのよ」

『お母さん……?』

「、あなたたちはお父さんの鳴り声ので、私が何をしていたのか度も見ようとしなかった。ただ話をかければ魚が湧いてくる魔法の械だとでもっていたの?」

話の向こうで、夫のしわがれた声が微かに響いた。 「か! そいつに今すぐ田へ話させろ! 違約でを売り払うことになるぞと脅せ!」

夫はまだ、何つ理解していない。

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