"台所へ追いやられた娘婿が、大晦日に義母を連れ去った夜" 第5話
私の声のあまりの静けさに、夫は瞬気圧されたように言葉を詰まらせた。 だがすぐに、血った目を剥きしにして窓の隙に指をかけた。
「何ですか、じゃねえよ! 会社がどうなってもいいのか!? 正の便がんだら、うちは何千万の損害をすんだぞ! おだってに迷うんだぞ!」
「迷いませんよ」
私はバッグのから、枚の面を取りし、ガラス越しに夫の目のに突きつけた。
「これは、公認会計士と弁護士を通じて作成した、私の個事務所の資産目録と、過分の取引実績です。私の事務所は、あなたの会社からの委託料ではなく、各仕入れ先との正規のコーディネート数料で完全に独採算を維持してきました。私の座には、私がで暮らしていくのに分な蓄えがあります」
夫の目が、類の文字を追おうとして激しく揺れた。
「な……んだと……?」
「あなたが私に渡していた々万円の『活費』は、族全員の費と用品で全て消えていました。私の仕事の対価は、円もあのには入っていません。私は、私の力できてきました」
夫の顔から、急速に血の気が引いていく。 この男が「養ってやっている」と信じ込んでいた妻は、最初から経済に完全に自していたのだ。 ただ、のと、娘たちの体裁のために、その事実を誇示せずにいただけだった。
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「わ、悪かった……!」
突然、夫の声が変わった。 号が消え、脂汗に濡れた顔が、醜く歪んだ。
「悪かったよ、! 俺の言い方が悪かった! な? おの仕事はちゃんと認めてる! 謝してるんだ! だから頼む、今夜は戻ってくれ!」
夫はのボディに両を突いて、懇願するように腰を折った。
「健司のことも悪かった! あいつにも謝る! からは座敷の座に座らせる! 配係じゃなくて、役員待遇にしてやるから! だから頼む、からりてくれ!」
コンビニのかりので、歳の元「成功者」が、惨めにをげている。 型トラックの運転たちが、何事かと巻きにこちらを見ていた。 あれほど世体を気にし、所の目を恐れていた男が、なりふり構わずで取り乱している。
私は、たいガラス越しに夫を見ろした。 臓の奥底から、氷のように透き通った問いが、自然とをついてた。
「ねえ、あなた」
「な、なんだ!?」
「もし、あの旅館からの話が鳴らなかったら」
夜が、私の髪を揺らした。
「あなたは、私を追いかけてきた?」
夫のきが、ぴたりと止まった。 を半きにしたまま、凍りついたように私を見つめている。 答えられるはずがなかった。 あの話がなければ、このは今頃、座敷で酒をみ直しながら、「ババアが勝にてった」と娘たちと嘲笑っていたはずなのだから。
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夫の沈黙が、すべてを証していた。 そして、その沈黙のに夫のからびした言葉が、私のに、決定な終止符を打った。
「そ、そんなこと言ってるじゃないだろ!! 頼むから、せめて正の納品が終わるまででいい! の朝の便がるまででいいから、戻ってくれよ!!」
喉の奥で、何かが静かに千切れる音がした。
座をしてまで、この男が求めているのは私ではない。 の朝、から届くマグロと、伊勢老の伝票だけだ。 寄り添った妻のなど、この男のには最初から度もしていなかったのだ。
「……健司さん」
「はい」
「窓を閉めてちょうだい」
「おい! ! 待て、けろ! 頼むからけてくれぇぇ!!」
夫が狂ったように窓ガラスを叩く、スイッチががり、たい夜気と号が完全に遮断された。 健司さんが静かにアクセルを踏み込む。
バックミラーので、夫が濡れたアスファルトのに膝から崩れ落ちていくのが見えた。 両を面につき、いつくばるようにして、ざかるのテールランプを見送っている。
携帯話が、内のダッシュボードで再び激しく点滅した。 画面には「会社・総務部」の文字。 理恵からの着信だろう。 元旦の朝を迎える頃、あのとあの会社がどうなっているか、私にはもうる由もなかった。
「母さん」
静かになった内で、健司さんがを向いたまま言った。
「アパート、を入れておきましたから。し狭いですけど、静かな所です」