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"台所へ追いやられた娘婿が、大晦日に義母を連れ去った夜" 第2話

この血の繋がらない娘婿だけが、ずっと見ていた。

座敷からは、女の夫の調子のれた笑い声と、夫の自話が聞こえてくる。 「俺がこのの台所を仕切ってやってるんだ」 「女なんてのはな、飯わせてやりゃ満するき物なんだよ」

私は濡れたを、清潔な布巾でゆっくりと拭いた。 指先の震えが、嘘のように止まっていた。

「……ええ。ましょう」

声がた。 驚くほど澄んだ、自分の声だった。

「もう、秒もいたくないわ」

健司さんはく頷くと、台所の隅、器棚の奥に隠しておいた私の黒いボストンバッグを、迷わず引っ張りした。 数、私がれず詰めておいた荷物だ。 なぜ彼がその所をっていたのかは、聞かなかった。

勝からへようとした瞬、座敷の襖が乱暴にいた。

「おい! ビールはどうしたって聞いてんだよ!」

千鳥の夫が、顔を真っ赤にして台所を覗き込んできた。 そのろから、審そうな顔をした真紀と女の美子がついてくる。 荷物を抱えた私と、私のにつ健司さんの姿を見て、夫の眉が吊りがった。

「……あ? 何だその荷物は」

「お母さん、何やってんの? 晦の宴会の途で」

真紀が苛ったように腕を組む。 健司さんは私を自分の背に隠すように歩へた。

「母さんを連れていきます」

台所の空気が、瞬で凍りついた。

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夫はを疑ったように目をしばたたかせ、やがて噴きすように嘲笑った。

「はあ? 連れていく? てめえみたいな底辺の運転が、俺の嫁をどこへ連れていくってんだ」

「どこでもいいです。あなたの声が届かない所なら」

「健司さん!」

真紀の切り声が響いた。

「あんた狂ったの!? お父さんにそんな利いて、から会社でどうなるか分かってんの!? 恥を晒すのもいい加減にしてよ!」

「真紀」

健司さんが妻の目をまっすぐに見据えた。 の結婚活ので、度も見せたことのない徹なが、その瞳に宿っていた。

「おは、自分の母親が今までどんないでこの台所にってたか、度でも考えたことがあるのか」

真紀が息を呑み、言葉に詰まる。 夫が顔を真っ赤にして鳴り散らした。

「ええい、図に乗るなよこの寄虫が! てきたきゃ勝にてけ! ババアもろとも野垂れにしろ! おい、敷居を跨いだら度とこのには入れんぞ! 円の活費も渡さんからな!」

夫は胸を張り、勝ち誇ったように言い放った。 これまで何度も私を縛り付けてきた呪いの言葉。 「おは俺がいなきゃきていけない」 「飯をわせてやってるのは誰だとっている」

私は健司さんの背から半歩横へて、夫の目を静かに見つめた。

「ええ。度と戻りません」

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それだけを言って、私は勝のドアノブにをかけた。 背で夫が「おい、待て! 冗談じゃねえぞ!」と叫ぶ声がしたが、振り返らなかった。

夜のたい空気が、照った頬を突き刺す。 裏にめられていたのは、健司さんが普段仕事で使っている軽バンではなく、彼が個で所している古い型のセダンだった。

助席のドアをけられ、私は滑り込むように乗り込んだ。 健司さんが運転席に乗り込み、エンジンをかける。 のヒーターが、かすかな唸りをげて温かいを元に送り込んできた。

サイドミラーの向こうで、実の玄関のかりがざかっていく。 暮らしただった。 の娘を産み、夫の顔を窺い、毎のように働いた所。 それが、たった数分で、ただの古い造の残骸のようにさくなっていく。

「母さん、シート倒しますか」

「いいえ、丈夫よ」

膝のに置いたボストンバッグを抱きしめる。 チャックの隙から、青いファイルがしだけのぞいていた。 限会社調達事務所。 資本百万、代表取締役・。 夫の会社とは法に完全に切りされた、私だけのの記録。

は国号線にて、へと静かにりはじめた。

その頃、実の座敷では、宴会が異様な空気ので再されていた。

「まったく、寄りのヒステリーだ。

放っておけばには泣きついてくる」

夫は座卓にどっかりと座り直し、しい徳利にを伸ばした。 だが、座敷に満ちていた華やかな空気は完全に消え失せていた。

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