"身代わり花嫁と一千万円の通帳" 第20話
……困っているを、目ので見捨てないために用してあるなんだ」
誠治さんの説は、私の凝り固まった常識を鮮やかに打ち砕いていった。
この座には、常に残が千万円を回らないように資がプールされているのだという。施設の職員の族が急な病で額な医療費が必になった、寄りのないお寄りが施設を退所して民のアパートへ移る際の敷や財具の費用がせない、あるいは町の暮らしの齢者が今夜べるものにも困って途方に暮れた――政の複雑な続きを待っていては命が持たないような緊急事態に、誠治さんが個として即座に無利子で現を融通し、命を繋ぎ止めるための、いわば「駆け込み寺の備え」なのだという。
「……でもね、今、この世界で番してもらわなきゃいけないのは、俺の妻になってくれた、遥さんなんだよ」
私は通帳を両で抱きしめたまま、言葉を失って震えていた。
「う……受け取れません……! そんな、誰かの命を救うための尊い切なおを、私なんかが預かっていいはずがありません……!」
「あげるって言ってるんじゃないんだよ」
誠治さんは困ったように目尻をげて笑った。
「このの活を、遥さんにも緒に守っていってほしいんだ。灯油代だって、源蔵さんが言った通り、から商の燃料さんに話して配達してもらえばいい。
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君がで、のでソリを引いて泣く必なんて、最初からどこにもなかったんだよ」
源蔵さんは、あのの来事を誠治さんに伝えていたのだ。
顔からがるほど恥ずかしいと同に、私ののでは巨な疑問の渦が猛烈な勢いで回転していた。
方の介護士の料で、どうやって千万円ものをプールできるというのか。困っているを救うために、常にこれほどの現を個でかせるとは、体何なのだ。
「……誠治さん。あなたは、体何者なんですか?」
私の震える問いかけに、誠治さんは元の湯呑みをじっと見つめ、数秒の沈黙の、観したようにさく息を吐きした。
「隠していたつもりはなかったんだけれど……順序を違えて、ちゃんと話していなかったね。すまなかった。……俺が『野の瀬の』で介護福祉士として働いているのは、紛れもない事実だよ。ただね……あの『野の瀬の』という施設を、にゼロからちげたのも、俺なんだ」
誠治さんは、淡々と、自分の歩んできた軌跡を語り始めた。
、当歳だった誠治さんは、空きになっていた古い民を借り受け、定員わずか名のさなデイサービス事業所をこの町でちげた。介護を必とするお寄りと、その介護に疲れ果てた族を救いたいというでのだった。
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その誠実な介護のあり方が評判を呼び、利用者は瞬くに増え、やがて特別養護老ホーム「野の瀬の」を建設するに至った。事業は町を越え、県を越えて広がり、現は『倉田福祉グループ』という法組織として、全国の都府県に、特別養護老ホーム、グループホーム、訪問介護ステーションなど、実に百箇所の事業所を展するまでに成していた。
グループ全体で働く職員の数は、パートやアルバイトも含めれば千百名を超えるという。
「……に回、背広を着てかけていた研修というのはね、県の部にあるグループ本社の役員会議だったんだよ。常の会社経営の舵取りは、信頼できる黒という社に任せてあるんだけれど、法の代表として、な経営判断や規事業の承認をするだけ、俺が本社へ顔をしているんだ」
私は、あまりのスケールのきさに呆然として、いたが塞がらなかった。
百の内さんが「倉田さんには町全体が世話になっている」とをげていた景も、源蔵さんが「倉田君のところなら」と全幅の信頼を寄せていた理由も、すべてが瞬で本の線に繋がった。
「……どうして、最初から言ってくださらなかったんですか?」
責めるつもりはなかった。ただ、あまりの現実の落差に、元が崩れ落ちるような恐怖を覚えたのだ。