みかん小説
本棚

"身代わり花嫁と一千万円の通帳" 第8話

「遥、あなたが代わりにきなさい。也にはもっと京のきなお持ちとのご縁があるはずよ。あなただって、もう歳でしょう? 元のさな会社でいつまでもの事務員を続けて、独でいるつもりなの? 相は真面目な公務員のようななんだから、あなたには分相応でお似いの縁談じゃないの」

「でも、私、お会いしたこともない方ですし……」

「会ったことがないから、お見いをするんじゃないの! お姉ちゃんの代わりなんだから、のの言わずに従いなさい!」

居の定位置でプロ野球の継を眺めていた父も、テレビ画面から目を逸らすことなく、皿にタバコを押し付けながら淡々と言い放った。

「そうだぞ、遥。源蔵叔父さんには昔、本の法事で世話になったんだ。望の名にを塗るような失礼があってはならん。おが引き受ければ、すべて丸く収まるんだ」

逆らえなかった。

物ついたから以、姉が嫌がったすべての役目を押し付けられ、「聞き分けの良い子」として自分のを殺し続けてきた私には、両親と姉のが結託して作りげた分い空気の壁を押し破る力など、どこにも残っていなかった。

その夜、自分の畳の部で布団をかぶり、暗い井を見つめながら、私はで考え続けていた。

広告

度もったことのない奥の町。度も顔を見たことのない歳の介護士の男性。

恐怖がなかったといえば、それは嘘になる。けれど、え切った胸の奥底のどこかで、かすかな、けれど抗いがたい別の囁きが聞こえていたのも事実だった。

(……これで、このからられるのかもしれない)

幼い頃から私を透のように扱い、姉のための犠牲として消費し続けてきたこの息苦しい望から、法に、正当な理由を持って脱できる唯の会なのではないか。

しかし、私はすぐにその浅ましい希望を自ら打ち消した。

相の倉田さんという男性も、源蔵さんから「美の客乗務員」だと聞かされて見いを承諾したはずなのだ。その見いの席に、姉の代わりにで何の取り柄もない妹の私ノコノコと現れたら、相だってあからさまに失望し、腹をてるに決まっている。

きっと、度形式だけの顔わせをして、先方から丁に断られて終わるだけだ。

そうい直すと、肩の力が抜け、しだけ胸の悸が静まった。

翌、母が源蔵さんにかけた話では、受話器の向こうで源蔵さんが「えっ……妹さんの方かい? いやあ、話が違うじゃないか……」とひどく困惑していたらしかった。しかし、それからの夜、源蔵さんからいがけない折り返しの話が入った。

広告

源蔵さんは、どこか信じられないといった面持ちでこう告げたという。

『倉田君にありのままを話したらね、彼はしも嫌な顔をせず、“それでも構いません。ぜひ度、妹の遥さんにお会いしてみたい”と言ってくれたんだよ』

見いのは、の最初の曜と決まった。

所は、野の瀬町の央を流れる清流のほとりに佇む、「川辺」という古い老舗料亭の個だった。

当の朝、私は母から渡されたな紺のアンサンブルスーツにを包み、母とで台駅のホームにった。父は「見いの席に父親がノコノコついていっても無駄を叩くだけだ」と言って、曜だというのにパチンコへかけていってしまった。姉の也は、見い夜に友たちと朝までみかしたらしく、私たちがをるにも自のベッドでいびきをかいて眠りこけていた。

台駅から特急と単線のローカル線を乗り継いで半。さらにそこから、に数本しかっていない古い線バスに揺られてを登ること。

窓の景は、のコンクリートのビルから、次第に然とした興宅へ、そして刈り取りの終わった広な田んぼへと移り変わり、最は赤や黄に燃えるような葉に染まった険しい々の懐へとく吸い込まれていった。

隣の席に座る母は、揺れるバスの内でもにスマートフォンの画面を操作し、姉の也が夜に送ってきた座の級バーの写真を見つめながら、「也ったら、また商社のエリートの男性から烈にアプローチされているんですって」

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: