"身代わり花嫁と一千万円の通帳" 第5話
と勝に呼びされたくらいのものだった。のきにわたってその会社に勤め続けたが、自分の楽しみや娯楽のために休暇を消化した記憶は、両の指で数えるほども残っていなかった。
私のの歯がきく軋み始めたのは、私が歳を迎えたのことだった。
祖母が自宅の暗い廊でを滑らせて転倒し、腿骨の付け根を骨折して救急で運ばれたのだ。骨を埋め込む術自体は無事に成功したものの、期にわたる入院活によって腰の筋力は著しく衰え、退院して自宅に戻ってきたには、でトイレにつことすらできない介護状態になっていた。
退院の翌、居に族全員が集められた。祖母の今の介護をどう分担するかという族会議だったが、その話しいは母の独壇となり、始からわずか分で方な結論がされた。
「也はね、規則な国際線のフライトでを空けることがいし、体力にも精神にも神経を使うお仕事だから、おばあちゃんの介護なんて台無理よ」
母は湯呑みをにしたまま、迷うことなくそう言い切った。
「私は昔から性な腰痛を抱えているし、お父さんは役所の仕事で毎忙しい。……遥、あなたが会社から帰ってきたら、代わりにおばあちゃんの面倒を見てあげなさい。
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あなたの勤め先は残業もないし、定できっちり帰ってこられるんだから、ちょうどいいでしょう」
隣のソファーにく腰掛けていた姉は、スマートフォンでネイルサロンの予約画面をスクロールさせたまま、顔をげることすらせずに、
「ごめんね、遥。お願いね」
と軽く呟いた。その声のどこを探しても、妹に労働を押し付けることに対する申し訳なさの響きなど、微も含まれていなかった。
そこからという気のくなるような歳を、私は毎の介護に捧げることとなった。
朝はに起きて祖母のオムツを替え、朝の流をべさせ、着替えを伝ってから勤した。夕方、定のになると誰よりもくタイムカードを押し、原付き自転をばして帰宅すると、休むもなく祖母の部へび込んだ。
汗をかいた祖母の体を蒸しタオルで拭きげ、ずれができないように体位を変え、夕を匙ずつへと運んだ。夜もおきに目覚まし計をセットし、寝ぼけをこすりながら祖母の部へ通って排泄の介助をった。
週に数回はデイサービスの職員や訪問ヘルパーのを借りることもあったが、制度の枠にある常の々しい排泄物の始末や、夜の終わりのない見守りをに引き受けていたのは、紛れもなく私だった。
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祖母は、私が腰をかがめての世話をするたびに、申し訳なさで押し潰されそうな表を浮かべて涙ぐんだ。
「……遥ばっかりに、こんな汚い仕事をさせて……本当にごめんねえ……」
「いいのよ、おばあちゃん。気にしないで。……今度は、私が美しいお茶を淹れてあげるからね」
私は台所からあのし欠けた急須を持ってきて、祖母のために湯ましをしたぬるめの緑茶を淹れ、細く震える祖母のに湯呑みを握らせた。祖母はそれを美しそうに啜ると、昔と同じように、目尻のい皺をくしゃくしゃにして微笑んでくれた。
祖母が息を引き取る数週の、シンシンとがり積もる真の夜のことだった。
々しい息ので、私が差ししたお茶を半分ほどにした祖母は、湯呑みを両で切そうに包み込んだまま、井をぼんやりと見つめてぽつりと言った。
「遥の淹れてくれるお茶をね……いつか、遥自のために、からんでくれるが現れるといいねえ」
「何それ、おばあちゃん。私はいつも、みんなのために淹れてるじゃない」
私が無理に笑顔を作って答えると、祖母は首をさく横に振った。
「そうじゃないんだよ。義務や代わりでお茶を淹れさせられるんじゃなくてね……遥の顔をまっすぐ見て、『美しいね』って、遥の淹れたお茶をんでくれるのことだよ。
……そんなと、いつか巡り会えるといいねえ」