みかん小説
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"母の友達" 第8話

「悠介」 母が静かに私の名を呼んだ。 「お父さんは、派なだったわよ。あなたにとってはね。も本物だったでしょう。でもね、あののは、自分のい通りに相をき換えることとセットだったの。私はかけて、あのに自分を消されたのよ。……あなた、運会ののこと、覚えてる?」

私は言葉を失ったまま、ち尽くしていた。

「あの、私はが度あって、起きがれなかった。でもあなたのお弁当だけは作りたくて、台所にってたの。そしたらお父さんが何て言ったとう?」

母の声から、切の抑揚が消えていた。

「『そんな顔でにるな。悠介が恥をかくだろう。寝に戻っていろ。俺が全部うまくやってやるから』って。そう言って、私を部に閉じ込めて鍵をかけたのよ」

臓が、鐘のように胸の内側を打ち鳴らしていた。 否定したかった。そんなはずはないと、父は誰よりも母を気遣い、病な母を支え続けた優しい夫だったはずだと、叫びたかった。 だが、テーブルのに転がる『訂正ノート』の、あの幾何学なまでに然とした父の跡が、母の言葉の残酷な正しさを無言で証していた。

居の空気が凍りつく、佳代さんが静かにちがった。

「今は、もう帰りましょう。これ以は、ご族でお話しされたほうがいいわ」

佳代さんは広げていた類を素く封筒にまとめると、私に向かってさくをげた。

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敵も、同も含まれていない、ただ事実をそこに置いた者としての、淡々とした礼だった。

玄関へ向かう佳代さんの背を、私は引き止めることもできなかった。 引き戸が閉まる音が、夜の底にく響いた。

居には、私と母のだけが残された。 父の遺が飾られた仏壇の線てから、の匂いが漂ってくる。

母は座ったまま、卓の『訂正ノート』を見つめていた。その横顔は、私のっている「守られるべき々しい母」ではなかった。の幽閉から、ようやく鉄格子にをかけたの、徹で乾いた横顔だった。

「……悠介」 母がぽつりと言った。 「、父さんのを全部、ゴミにすわよ。伝ってくれるわね」

私は何も答えられず、ただ自分の元を見つめることしかできなかった。 元の畳の触すら、どこか偽物のようにえてならなかった。

夜がけても、の芯に残る鈍い痺れのような覚は消えなかった。

客の煎餅布団に横たわったまま、私は井の目を数えていた。節くれだった杉板の模様が、子どもの頃はの顔に見えて怖かったことをいす。その記憶すら、本当に自分がそうじたものなのか、父が「悠介はあの目を怖がって泣いたことがある」とから吹き込んだものなのか、判別がつかなくなっていた。

階へりると、台所にはすでにたいのが差し込んでいた。

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勝のには、リットルの透なゴミ袋がつ、きっちりとを縛られて並んでいた。すべて父のだった。用の仕ての良いジャケット、几帳面にアイロンがかけられていた形状記憶のワイシャツ、休によく着ていたなニット。それらが容赦なく詰め込まれ、プラスチックのい膜ので押し潰されていた。

母は卓の端に座り、湯のみを両で包んでいた。 昨夜と同じを着ていたが、髪はろで無造作に束ねられ、化粧気のない顔には昨夜の張り詰めた険しさはなかった。ただ、の荷をろした特の、どこか放したような静けさが漂っていた。

「起きたの」

母は私を見げることなく、く言った。

「台所にパンがあるわよ。トースターで焼きなさい」

「……母さん」

私は母の向かいの子を引いた。昨夜、佳代さんが座っていた所だ。

「佳代さんから預かった類、どうする気なの」

母は湯のみをし傾け、めた湯を啜った。

「来週、の福祉相談に持ってくわ。正彦さんの名で残っている古い類の訂正と、私の当の医療帳の記録を照らしわせてもらうの。公な記録が残っているわけじゃないから、今さら何も変わらないかもしれないけれど。……私が本当に、あのが言うように何もできないだったわけじゃないってことだけは、に残しておきたいのよ」

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