みかん小説
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"母の友達" 第5話

何が本当なんだよ」

「本当のことなんて、ってどうするの」

母は顔をげ、私を真正面から見据えた。その瞳には涙すら浮かんでいなかった。ただ、というので堆積した、底れない疲労と諦めが貼りついていた。

「あなたはお父さんの言うことを信じて、真っ直ぐ育ったじゃない。それで分でしょう。これ以、私を引っ掻き回さないで」

母はちがると、私の横をすり抜けて部をていった。階へりる音がざかり、台所のからが流れる音が聞こえてくるまで、私は暗い斎にち尽くしていた。

「お父さんの言うことを信じて」――母はそう言った。

私は振り返り、スチールラックを見つめた。 棚には、で国語教師をしていた父の蔵が然と並んでいる。辞、代文学全集、教育学の専。父はすべての背表にラベルを貼り、購入を鉛で几帳面にき留めるだった。何事にも秩序を求め、曖昧さを嫌い、庭内でも常に正論をにしていた。

さっき母が隠した茶いバインダーは、ラックの最段、埃をかぶった古い教育紀のに挟まれていた。

私はしゃがみ込み、そのバインダーを引き抜いた。 表には何もかれていない。具をくと、からてきたのは類ではなく、古い写真の束だった。

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サービス判のカラー写真が、付順に透なポケットへ収められている。 私が歳から歳頃のものだ。所の公園の滑り台、自宅の庭でのプール遊び、居の炬燵で絵の具を使っている私。 そのほとんどに、父の端正な文字で裏面に付と所がメモされていた。

枚、指が止まった。 台所で、私がさな茶碗を両で持っている写真だ。奥のコンロ脇に、青いエプロンを着た女性の半が写り込んでいる。顔は見切れているが、そのエプロンの柄と、し丸まった背の輪郭には見覚えがあった。 昼、こので根を煮ていた、森佳代の姿だった。

裏を返すと、鉛でこうかれていた。 『平成 台所にて(悠介歳)』

平成。 その期、母はい自律神経失調症で寝込んでいたはずだった。だが、このアルバムの同じページには、居のソファで穏やかに微笑む母の写真も並べて貼られていた。付は『平成』。髪を綺麗にえ、化粧をし、膝掛けをかけた母が、カメラに向かってぎこちなく笑っている。

よく見ると、母の写真は印画の縁がわずかに黄ばんでいた。写真用のメーカーのロゴが、佳代さんの写り込んでいる写真とは微妙に異なっている。別のに撮られた母の写真を、あたかも同じ期の記録であるかのように、父がここに差し挟んだのではないか。

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胸騒ぎを覚えながら、私はさらにラックの奥を探った。 本を取り除いた奥の壁際、ダンボール箱の底に、見慣れない冊のノートが押し込まれていた。 無印良品の、ごくありふれたB5サイズの横罫線ノート。表の角が擦れで丸くなり、表面には父の几帳面な楷で、こう記されていた。

『悠介のための訂正ノート 』 『悠介のための訂正ノート 』

訂正ノート。 学の頃、テストで違えた漢字や計算をやり直すために、父が私に作らせていたノートと同じ名だった。だが、父自の跡でかれたこの冊は、らかに子どもの勉用ではなかった。

冊目をいた。 記のような形式で、付とい文章が然と並んでいた。

『平成 悠介、帰宅に母のを問う。母さんは邪をこじらせて事をとって休んでいると説済み。納得した様子。佳代さんの入りは所の目に触れぬよう、勝の利用を徹底させること。学の連絡帳には庭の事を切かないこと』

『平成 悠介、夕の付けがいつもと違うと指摘。母さんがしい料理本を見て作ったと訂正。佳代さんには付けをめにするよう指示。余計な話を悠介にしないよう、改めて押し』

『平成(運会事) 恵、当起きがる自信がないと訴える。

佳代さんに同伴を依頼。悠介には、母さんは混みで気分が悪くなり本部席ろのテントで見ていたと伝えること。

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