"鍵をかけた部屋で、誰かがシャワーを浴びている" 第13話
携帯話がポケットので震えた。 画面を見る。 表示されていたのは、由佳の番号だった。
度、度、度。 画面が点滅を繰り返す。 私は通話ボタンを押さず、着信拒否の操作をして、画面を伏せた。もう度と、あいつの声を聞くつもりはなかった。
しかし、現実はそう簡単に私を解放してはくれなかった。
夕方、私はい取りでマンションへと戻った。 警察には「今に鑑識が入る能性があるため、洗面所には触らないでほしい」と言われていた。本当はもう晩ホテルに泊まりたかったが、着替えも化粧品も仕事のノートパソコンも部にある。のクライアントへのプレゼン資料を仕げなければならなかった。
エントランスの自ドアのまで歩いてきたときだった。
マンションの敷内、暗いゴミ集積所の脇に設置された自販売のから、すっとが滑りてきた。
トレンチコートを着た女。 乱れた栗のボブヘアから、血ったつの目が私を凝していた。
由佳だった。
臓がねがり、が止まった。 彼女は昼のような泣き顔ではなかった。化粧は崩れ、頬はこけ、唇をく噛み締めている。その姿には、れな被害者の装いは微もなく、追い詰められた獣のような切迫が漂っていた。
「……紗織」
乾いた、い声だった。
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彼女は周囲を油断なく見回しながら、に私との距を詰めてきた。私は無識に歩、ずさりをした。
「づかないで」
私の拒絶の言葉を無して、由佳は私の腕を掴もうとを伸ばしてきた。私はをよじってそのを払いのけた。
「触らないで!」
「紗織、お願い、話を聞いて! 話、なんでないの!? 着信拒否にしたでしょ!」 由佳の声はヒステリックに裏返っていた。自販の蛍灯のが、彼女の異様に引きつった顔を青く照らしす。
「話すことなんて何もない。全部、警察に持っていったから」
その瞬、由佳のきが完全に止まった。 見かれた両目の瞳孔が、恐怖で極限まで収縮していくのが見えた。
「……え?」
「洗面台のにあった、黒い袋。警察に全部渡した」
静寂が、のに落ちた。 くで救急のサイレンが微かに聞こえていた。自販の却ファンのい唸り声だけが、元で震えている。
「……嘘でしょ?」 由佳のから、掠れた空気の音が漏れた。
「嘘じゃない。川署の刑事さんが来て、を確認した。さんのエプロンだってことも、全部聞いた」
由佳の顔から、急速に血の気が失われ、気へと変わっていった。 彼女はを抱え、ずさりをしながら、信じられないものを見る目で私を見つめた。
「なんで……なんでそんなことするの!? 余計なことしないでって言ったじゃない! あれは、私の物なのよ! あんたには関係ないじゃない!」
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「関係ない!?」 私のりが、腹の底から爆発した。周囲の目を気にする余裕すら吹きんでいた。
「私の部よ! 私のの洗面所に、あんな血だらけの物を隠しておいて、何が関係ないのよ! あんた、あの夜、私ので何を洗ってたの!? の血を、私のシャワーで洗い流してたんでしょ! よくそんなことができたわね!」
由佳は激しく首を横に振った。髪が乱れ、額に張り付く。
「違う! 私は洗っただけ! 私が殴ったわけじゃない! 私は悪くないのよ!」 彼女は泣き叫ぶように、自らの正当性をまくしたてた。 「田島さんが、あれを処分してくれたら、溜まってた料全部払うって言ったの! 万よ!? 私、賃も払えなくて、今べるものもなくて、あのがなきゃ本当にぬしかなかったの! あんたには分からないでしょ!? 正社員で、デザインの仕事で稼いでて、綺麗でおしゃれな部にでんでるあんたには、私の惨めさなんてこれっぽっちも分からないでしょ!」
勝な逆みの言葉に、眩暈がした。
「だからって……私のを使う理由になるわけないでしょ! なんで私のなのよ! なんで私を巻き込んだの!」
私の問いに、由佳は元を歪め、嘲笑うような、狂気を孕んだ笑みを浮かべた。
「……番、全だったからよ」
吐き気がするほど瞭に、その言葉が夜の空気に響いた。
「紗織は暮らしで、彼氏もいなくて、夜遊びもしない。
毎に寝て、栓して、朝の半まで絶対に起きない。