"26年尽くした家を出る私を、車椅子の娘は無表情で見送った" 第13話
「わかった、試にはかせてやる! だからこれを持ってけ! お袋の保険証と診察券だ! 夕方には戻ってきて、お袋を病院に連れてけ、いいな!」
彩の膝のに置かれた、義母の名がかれた期齢者医療被保険者証と、介護保険証。
彩は、そのカードを指先でつまみげた。 そして、ドライバーが差ししたアルミのスロープを、自力で、力く輪を回してりていく。 元夫の横を通り過ぎ、福祉タクシーのリフトへと乗り込んだ。
「おい! 聞いてるのか彩!」
元夫が焦ってに寄ろうとした、その瞬だった。
彩は、指先に挟んでいた義母の保険証を、ひらりと放した。
いプラスチックのカードが、に濡れたアスファルトのへ、ヒラヒラと落ちていく。 黒ずんだたまりのに、をねげて、無残に沈んだ。
「あ……!」
元夫が息を呑む。
彩は、窓越しに元夫の顔をたく見ろした。 度も、眉をかさなかった。
「運転さん」
澄んだ、凛とした声が、の朝の空気を切り裂いた。
「ドアを閉めてください。発してください」
ウィーン、とモーター音が鳴り、リフトが収容され、いスライドドアがピシャリと閉まった。
取り残された元夫は、濡れた面に落ちた母親の保険証を見ろし、をパクパクとさせながらち尽くしていた。 やがて、向かいのの窓からカーテンの隙から覗く所の線に気づき、慌ててまみれのカードを拾いげ、逃げるようにのへ駆け込んでいった。
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りっていく福祉タクシーの赤いテールランプを、私は傘のからじっと見つめていた。
胸の奥が、く、激しく震えていた。
あの子は、もう誰の言いなりにもならない。 父親の支配も、母親の過保護も。 自分のを縛り付けようとするすべての鎖を、自らので、あのたまりのに投げ捨てたのだ。
脚が、しずつくなっていた。 私はたくなった指先で傘の柄を握り直し、りったタクシーの軌跡を、いつまでも、いつまでも見つめ続けていた。
午分。
枕元で突然、スマホが甲い警告音をててねた。
臓がねがり、喉の奥がカラカラに渇く。 まだ夜けのえ切った畳で、震えるで画面を掴み取った。
画面にっていたのは、区役所の障害福祉課の専用ホットラインからだった。
『緊急連絡システムより自転送:自活訓練・第号において、午分、内非常通報ボタンが押されました。警備会社が現』
の芯が真っになった。
訓練。彩。 昨夜、父親の妨害を振り切ってあの部へ入ったばかりの娘。
体が勝にいていた。 パジャマのにコートを引っ掛け、財布と鍵を鷲掴みにしてアパートをびした。 階段を駆けりると、刺すような未の気が肺の奥まで突き刺さった。
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駅までる、ので最悪の像ばかりが渦を巻いた。 ベッドから落ちてを打ったのか。 お呂でけなくなったのか。 をしたのか。 やっぱり無理だったんだ。あんな体で暮らしなんて、最初から無謀だったんだ――。
かつての過保護な考が、猛毒のようにをもたげてくる。 それを必に振り払いながら、駅にある公営バリアフリー宅のオートロックを、駆けつけたケースワーカーの坂井さんと共に突破した。
エレベーターが階に到着し、扉がく。
廊の突き当たり、訓練のドアがけ放たれていた。 から、聞き慣れた、そしてを塞ぎたくなるような鳴り声が響き渡っていた。
「だから言っただろ! おなんかに暮らしができるわけねえってな!」
元夫だった。 すでに部のにがり込み、同然の勢いでちはだかっていた。
部のへ踏み込んだ瞬、私のが止まった。
清潔なフローリングの真ん。 ベッドの脇に敷かれた衝撃吸収マットのに、彩が倒れ込んでいた。 毛布を肩から羽織り、自式子は数歩れた所で斜めに倒れている。
怪は……ないようだった。 血も流れていない。 駆けつけた民警備会社の男性が、困惑した顔で部の隅にち尽くしていた。
「お、夜にトイレにこうとして子への移乗に失敗したんだろ!」