"26年尽くした家を出る私を、車椅子の娘は無表情で見送った" 第10話
元夫だった。
度呼吸をして、通話ボタンを押す。 に当てた瞬、鼓膜を破らんばかりの鳴り声がび込んできた。
「おい真理子! てめえ、何話を無してんだ!」
「……何の用ですか。私たちはもう、のはずですけれど」
「だの何だの言ってるか! お袋が倒れたんだよ!」
臓が、ドクンと嫌な音をてた。
「……お義母さんが?」
「昨の夜、トイレので倒れて起きがれなくなって救急呼んだんだ! 脳の血管が詰まりかけてるって言われて、過性脳虚血発作とかいうやつだ! 幸い麻痺は残らなかったが、腰が気にたなくなって、今退院してきたんだよ!」
捲してる元夫の声のろから、かすかに聞き覚えのある切り声が漏れ聞こえてきた。
『痛い! 腰が痛くてけないわよ! 隆史、お茶! くいお茶持ってきなさい!』
歳の義母の声だ。 命に別状はないらしい。そのことに、ほんのし堵した自分と、それ以にたい胃の痛みを覚える自分がいた。
「病院のソーシャルワーカーに言われたんだよ。介護2相当だから、すぐにケアマネジャーをつけてプランを作れってな。そんなこと、俺がでできるわけねえだろ! 飯も作らなきゃならねえし、お袋はトイレにでけねえし、オムツなんか俺が替えられるか!」
元夫の荒い息遣いが、スピーカー越しに々しく伝わってくる。
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「いいから今すぐ戻ってこい! の鍵はけてある! 彩のことだってあるんだ、おが全部引き受けるのが筋だろ!」
……筋? どのが、それを言うのか。
「お断りします」
私は努めて平坦な声で返した。
「役所の域包括支援センターに話してください。あそこへけば、介護保険の申請も、担当のケアマネジャーの配も、すべて続きを教えてくれます」
「そんな悠なことやってられるか! 今の夜の飯はどうするんだよ!」
「ご自分で作ればいいでしょう。スーパーの惣菜でも、お弁当の宅配でも、いくらでもあります」
「ふざけるな! お袋があんなもんうわけないだろ! お、母親と娘を見捨てる気か!」
受話器を握る指先が、くなるほど力が入った。 けれど、りは湧いてこなかった。 ただ、どこまでもえ切った、乾いたが胸の奥を吹き抜けていくだけだった。
「私にはもう、あなたのご族を扶養する法な義務はありません。これ以連絡してくるなら、区の無料法律相談で弁護士にに入ってもらいます」
「おい、待て! 真理子、おい――」
通話を切り、着信拒否の登録をした。
画面が暗転した部ので、私はゆっくりと息を吐きした。 体が微かに震えていた。 かつての私なら、パニックになって「すぐきます」と靴を履いていたはずだ。 その呪縛を断ち切った代償として、胸の奥に鉛のような罪悪が沈殿していくのをじながら。
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だが、元夫の暴は、私の像を遥かに超える形でき始めていた。
その事実をったのは、数、区役所の障害福祉課から届いた通の郵送物だった。 彩の自活訓練への入居に関する、最終スケジュールの案内。 親権や扶養関係の法な理が完したことで、私宛てに事務な報告として送られてきた類だった。
そこには、翌週の曜から、彩が週の『期試体験』に入ることが記されていた。
胸の奥がキュッと締め付けられる。 あの子は、本当にへもうとしている。 私の裏切りをってもなお、ち止まらずに、自分ので。
ところが、類に同封されていたケースワーカーの坂井さんからのきのメモに、穏なが添えられていた。
『宮本様。現、お父様が彩さんの自支援に関して非常に協力になられており、訓練の契約にも同席されました。ただ、お父様から「訓練と同じ棟、あるいは隣の齢者向けバリアフリー宅に、祖母の転居先を確保できないか」というご相談を頻繁にいただいております。のため、ご報告まで』
……は? 同じ棟? 隣の齢者宅?
類を持つが、嫌な汗で湿っていった。
あの男が、彩の自に協力? 自分の靴すら探せない男が、子の娘の引越しや契約に付き添っている? 違と胸騒ぎが、波のように押し寄せてくる。