"26年尽くした家を出る私を、車椅子の娘は無表情で見送った" 第6話
夫の声だ。 私は息を潜め、玄関アプローチの垣の隙から覗き込んだ。
玄関の引き戸がいており、夫が彩の子をへそうとしていた。 だが、玄関とポーチのにある、わずかセンチの段差。 普段、私が輪のキャスターを軽く浮かせて難なく乗り越えさせていたその段差に、輪が真っ直ぐ激突していた。
衝撃で、輪が止まる。 彩の細い半が、のめりにきく傾いた。
「あっ……!」
彩のい鳴。 もうしで、アスファルトの面に顔から投げされるところだった。 彩は必にアームサポートにしがみつき、青ざめた顔で呼吸を乱している。
それに対して、夫は謝るどころか、子のグリップを乱暴に蹴りばすようにして舌打ちした。
「チッ……おがもっとろにをかけないからだろ! てえな、しは協力しろよ!」
「お父さん、キャスターをげなきゃ段差は越えられないって、さっき言ったでしょ……!」
「指図するな! 俺は仕事で疲れてるんだよ! 病院の予約に遅れたらどうするんだ!」
彩の首が、恐怖と悔しさで震えていた。 その景を見た瞬、私のので何かが弾けんだ。
「何をやっているの!」
垣を回り込み、私は股でポーチへ踏み込んだ。 夫がぎょっとして振り返り、彩の瞳が見かれる。
「真理子……お、なんでここに」
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「段差を越えるときはティッピングレバーを踏んでキャスターを浮かすの! 何度教えたら覚えるのよ! 彩が落ちたらどうするつもり!」
私は夫のから子のグリップを力任せに奪い取ろうとした。 、毎のように繰り返してきた作。 私のこそが、この子を最も全に扱えるのだと、体に刻み込まれた自負があった。
だが、私のがグリップに触れる寸。
バチン、と乾いた音が響いた。
彩が、自分の細い腕を振りげ、私のをい切り叩き落としたのだ。
皮膚がじんじんと痛む。 私は目を見張り、ち尽くした。
「触らないで」
彩の声は、く、え切っていた。 私を拒絶するその瞳には、涙の粒すら浮かんでいなかった。
「彩……?」
「お母さんに関係ないでしょ。勝に入ってこないで」
「関係ないって……あなた、落ちそうになっていたじゃない! このには無理なのよ! 子の扱いも、あなたの体のことも、何も分かっていないの!」
「分かってないのは、お父さんだけじゃないよ」
彩は私を真っ直ぐに見据えたまま、言い放った。
「お父さんは、やり方をらないだけ。でも、お母さんは……私が自分でやろうとすることを、全部奪ってきたじゃない」
「え……?」
「荷物、届けに来たんでしょ。そこに置いて。もう帰って」
彩はブレーキを解除し、自力でハンドリムを力く握り直した。
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そして、夫に向かって鋭く言った。
「お父さん、押して。レバーを踏んで、輪を浮かせて。今度はちゃんとやって」
夫は私の顔をチラリと見て、嘲笑うような笑みを元に浮かべた。
「聞いたか、真理子。部者はおだ。娘もおを必としてないんだよ。さっさと消えろ」
夫がおぼつかない取りでレバーを踏み、子がぎこちなく段差を越えていく。 の背が、ざかっていく。 度も、振り返ることはなかった。
元には、私が持ってきた袋が虚しく転がっていた。 から転がりた褥瘡予防の膏のいチューブが、のい陽射しを浴びて、鈍くっていた。
それから。 私は再び、宮本の玄関のにいた。
今度は、抜き打ちではない。 区役所の障害福祉課から連絡が入ったのだ。
『彩さんの自活訓練の利用申請に伴い、本午から、ご自宅で相談支援専員と域包括支援センターによる事アセスメント(面談)がわれます。元ご族として、これまでの介護状況の確認のため、能であれば同席をお願いしたいと……彩さんご本からも承諾がております』
承諾がた。 その言葉を聞いたとき、私は微かな希望を抱いてしまった。 あので夫の酷い介助に懲りて、ようやく私のありがたみに気づいたのではないか。 暮らしなどという絵空事を諦め、私のアパートへ来ると言ってくれるのではないか。
産の菓子折りを抱え、チャイムを鳴らす。