みかん小説
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"26年尽くした家を出る私を、車椅子の娘は無表情で見送った" 第5話

レジの列に並んでいると、背から声をかけられた。

「あら、宮本さんじゃない?」

振り返ると、同じ町内会にむ主婦の井さんだった。 いつも義母とお茶み友達で、所の噂話に誰よりもざとい女性だ。 井さんは私の顔を見るなり、わざとらしく眉をげ、ヒソヒソ声で擦り寄ってきた。

「ちょっと、聞いたわよ。変ねえ、急にご実の方で事ができたんですって?」

「……え?」

「ご主がほら、域のSNSグループに投稿してたじゃない。『妻が庭の事でをれることになったが、男つで子の娘と齢の母を守り抜く』って。写真付きで。町内のみんな、ご主のこと見直してるわよ。あんなに派なお父さんだったのねえって」

喉の奥が、カッとくなった。 臓が嫌な音をてて鐘を打つ。

男つで? 守り抜く?

夫は、娘が普段んでいる薬の残量すららない。 義母のデイサービスの連絡帳にハンコつ押したことがない男が、所に向かって『献な父親』を演じている?

「……ええ、まあ」

私は引き攣った笑みを貼り付け、買い物を放りすようにしてスーパーをびした。

スマホをき、数ぶりに夫のSNSアカウントを検索した。 画面の最段に、昨夜投稿されたばかりの写真が表示される。

綺麗にえられたダイニングテーブル。 子に座る彩の肩にを置き、カメラに向かって頼もしげな笑みを浮かべる夫。

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添えられた文面には、吐き気のするような美辞麗句が並んでいた。

『どんな困難があっても、族の絆は壊れない。今から娘の介護は俺がすべて引き受ける。父親としての真価が問われるだ』

コメント欄には「素らしいお父さん」「応援しています」「奥様もですね」といった称賛の言葉が溢れかえっていた。

携帯を握りしめる指先が、刻みに震えた。

嘘つき。 何もできないくせに。 彩の移乗介助で、どれだけ腰に負担がかかるかもらないくせに。 あの男にできるはずがない。も持たずに音をげるに決まっている。

その、画面が切り替わり、夫からのメッセージが届いた。 SNSの清々しい文章とは真逆の、苛ちに満ちた文字列。

『おい、彩の入浴用のスライディングボードはどこだ。呂のに置いてないぞ』 『子のタイヤの空気入れ、どこに隠した? く教えろ』 『お袋が昨夜から腰の痛みを訴えて寝たきりだ。湿布の予備をしておけと言っただろ』

私は画面を睨みつけ、たく息を吐き捨てた。 隠したんじゃない。 物置の棚の、決まった所に置いてある。、ずっと同じ所に。 それすら探そうとせず、私を呼びつけることしか能がないのだ。

放っておけばいい。 もう婚届は受理された。私は赤のだ。 あので誰が腰を痛めようが、誰が呂に入れなかろうが、私のったことではない。

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そう自分に言い聞かせながら、私のは、部の隅に置いた段ボール箱へと向かっていた。

箱のには、アパートへ持ってきた彩の荷物が入っていた。 用ののカーディガン。 子用の防クッションカバー。 そして、彩が定期に皮膚科で処方してもらっている、褥瘡予防の保湿膏。

「……あの子、あの膏がないと、すぐに皮膚が赤くなって擦り傷になるのに」

独り言が、たい部に落ちた。 けない。本当にけない。 あれほど酷に突き放され、名を線で抹消されたというのに、体に染み付いた『母親』の習性が消えてくれない。

私はきな袋に膏と防寒具、そして移乗用のボードを詰め込んだ。

あの子に会いにくのではない。 忘れ物を届けるだけだ。 そして、あの無謀な暮らしの申請を、なんとしても撤回させなければならない。 あんな体で自活など、できるはずがないのだから。

翌の午、私はかつて暮らした宮本のにっていた。

見慣れた茶い瓦根。 玄関脇の植栽は入れがされず、数のにくも荒れ始めていた。 インターホンを押そうと扉にをかけた、その瞬だった。

ガタガタッ、という激しい物音と、荒々しい鳴り声が庭の奥から聞こえてきた。

「おい! もっと元に気をつけろって言ってるだろ!」

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