"6年介護した義父から「息子を信じるな」と電話が来た" 第11話
私は持参した袋から、途の果物で見つけたぶりの梨を取りした。
「これ、柔らかくて甘いっておのが言っていたので。剥きましょうか?」
「おお、ありがたい。ナイフならそこの引きしに借りてある」
果物ナイフで皮を剥き、に切って皿に並べる。
義父は器用にくようになったでフォークを持ち、切れをに運んだ。
「うん、甘いな。……なお子さん、仕事はどうだ」
「ち仕事には慣れました。職のパート仲も親切なばかりで、毎賄いのお惣菜をもらって帰るんです。暮らしにはちょうどよくて」
「そうか。……アパートは寒くないか」
「エアコンもありますし、当たりがいいので温かいですよ」
のない世話が、途切れることなく続いた。
かつて、あの暗いで、互いに申し訳なさを抱え込みながら交わしていた、苦しい会話とはまるで違っていた。
介護する側とされる側という、歪んだ依の鎖が断ち切られたことで、私たちはようやく、ただの「と」として向きえるようになっていた。
やがて、窓のの空が夕焼けに染まり始めた頃。
義父がふとフォークを置き、窓のの赤く染まる並みを見つめながらをいた。
「……あけぼの苑から話をかけたな」
部の空気が、わずかに静まった。
「本当は……怖くてたまらんかったんじゃ」
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義父のが、膝ののブランケットをぎゅっと握りしめた。
「浩司に『嫁はおを捨てたがっている』と言われた、のが真っになった。、おにどれだけ苦労をかけてきたか分かっていたからこそ……ああ、とうとう見限られたんじゃなと、半分は信じてしまった」
「お義父さん……」
「でもな、あいつが実を売る類を持ってきた、どうしても納得がいかんかった。おが、わしを騙してまでを奪うような男の方をするはずがないと。……それで、職員さんにをげて話を借りた。だが、呼びし音が鳴っている、臓が破裂しそうだったよ」
義父はさく息を震わせ、私の方を向いた。
「もし、おが話にてくれなかったら。もし、『もう度と話してこないで』とたく切られたら……わしは本当に、きる気力を失っていたとう」
あのの、Threadsに刻まれた切迫したやり取りが、鮮に蘇る。
『嫁さんか。息子を信じるな』
あの声は、財産を守るための叫びである以に、信じていた族との絆が完全に偽りであったのかを確かめるための、命懸けの問いかけだったのだ。
「私も、同じでした」
私は机のに置かれた義父のを、そっと両で包み込んだ。
「浩司さんから『お義父さんがもう私の顔を見たくないと言っている』と聞かされた……目のが真っ暗になりました。
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私のは何だったんだろうって、自分を全否定されたような気持ちでした」
「……すまなかったな」
「いいえ。でも、あの……ほんの瞬だけ、のどこかで『これで介護から解放されるんだ』と、ホッとしてしまった自分がいたんです」
ずっと胸の奥底に隠し、誰にも言えなかった罪悪を、私は初めて言葉にした。
「それが、自分でもけなくて、で……許せなかった」
義父は私のをじっと見つめ、それから、ゆっくりと首を横に振った。
「当たりじゃ」
その声は、驚くほど力く、温かかった。
「、仏様にはなれんよ。ものの世話をして、ホッとせんがおるわけがない。おは分に苦しんだ。分に尽くしてくれた。……自分を責めるな」
義父の親指が、私のの甲を優しくさすった。
湿布の匂いではなく、鹸の清潔な匂いがする、ゴツゴツとしたきな。
「なお子さん」
義父は、私をまっすぐに見つめて言った。
「これからはな……気が向いたにだけ、顔を見せてくれればええ。疲れたら休みなさい。仕事が忙しければ、来なくていい。……毎来なくていいんじゃよ」
その言が、私の胸の奥くに溜まっていた最の氷を、綺麗に溶かしていった。
毎来なくていい。
それは、突き放す言葉ではない。
私を「介護者」という役割の檻から解き放ち、の自したとして尊してくれる、義父からの最のと謝の言葉だった。
「……はい。でも、美しい梨を見つけたら、また持ってきますね」
私が微笑むと、義父は満そうに目を細め、く度頷いた。
施設をると、のたいが頬をかすめた。
の空には、息を呑むほど鮮やかな茜の残が広がり、番がく輝き始めている。
駅へ向かうすがら、私はコートのポケットに両を突っ込み、く息を吸い込んだ。たい空気が、よく肺を満たしていく。
失ったものは、決してなくない。
数の結婚活も、み慣れたも、社会な肩きも、すべて過の彼方へ消えった。
けれど、私ののには、誰にも奪われない自由と、自分自のでっているという確かな実がある。
も、朝の澄んだ空気ので仕事が始まる。
帰れば、静かで温かい自分のが待っている。
私はを向き、凛とした夜空のを、軽やかな取りで歩ずつ踏みしていった。