"6年介護した義父から「息子を信じるな」と電話が来た" 第9話
そして、血った目で私を、最に義父を射抜くように睨みつけた。
「……勝にしろ。どいつもこいつも、悔させてやるからな」
負け惜しみの捨て台を吐き捨て、浩司は音荒く相談をびしていった。
廊の奥で自ドアが閉する鈍い音が響き、やがてくでのタイヤが軋む音が聞こえた。
嵐がったの部には、くたい静寂が残されていた。
私はく息を吸い込み、机の端を掴んで体を支えた。の指先まで緊張で張っていたことに、そのになってようやく気がついた。
「奥様、丈夫ですか」
川さんがそっと私の肩にを置いてくれた。
「はい……。お騒がせして、本当に申し訳ありませんでした」
「いいえ。よく仰ってくださいました。忠雄さんの尊厳も、奥様のこれからのも、ここで線引きをしなければ取り返しのつかないことになっていましたから」
子の義父が、さく息を吐きした。
「嫁さん」
「はい、お義父さん」
「あの……おがめばいい。浩司を追いして、おがで暮らせばいいんじゃ。あそこはおのでもある」
私は首を横に振った。
「いいえ、お義父さん。あのはお義父さんとお義母さんが汗流して守ってきた所です。それに……あそこにで残れば、私はいつまでも『佐藤の嫁』のに囚われ続けてしまいます。
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私は、あのをます」
義父は私の顔をじっと見つめ、痛ましげに目を伏せた。
「……すまんな。もわしの体に縛り付けて、その挙げ句にまで失わせることになって」
「違います」
私は義父のにしゃがみ込み、その目をまっすぐに見つめ返した。
「縛り付けられていたのではありません。私がお義父さんを放っておけなくて、自分ので世話をしてきたんです。でも、もう終わりにします。これ以は、私のが壊れてしまうから。……自分勝で、ごめんなさい」
喉の奥がくなり、涙が溢れそうになった。
義父の麻痺のないが、そっと私ののに置かれた。節くれだった、温かいのひらだった。
「よう言ってくれた。……それでいい。それが正しいんじゃよ、なお子さん」
そのを境に、事態は現実な続きの波となってき始めた。
川さんの引きにより、域包括支援センターと連携している法テラスの弁護士が介入した。
まず、義父の判断能力が健であることを担保するため、専医による認能検査の診断が作成された。そので、法務局へ向かい、義父の自宅産に対する正な登記移転を防止するための申をい、融関には浩司による預の無断引きしを防ぐための利用制限をかけた。浩司が裏で画策していた県境の無認施設への転院契約も、弁護士からの通本で即座に無効化された。
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数、私は自分の荷物をまとめるため、で誰もいない自宅へ戻った。
鍵をけて入ったのは、気なほど静まり返っていた。
階の奥、を過ごした介護用のにを踏み入れる。
畳のには、浩司が荒らした類の残骸が散らばっていた。壁に取り付けられた製のすり、ポータブルトイレが置かれていたの凹み、井から吊りげられたナースコールの紐。
部に染み付いた消毒液と湿布の匂いを嗅いだ瞬、胸の奥から押し寄せてきたのは、懐かしさではなく、吐き気を催すほどの圧だった。
私はこの、この部の角い井ので、義父の呼吸音だけに神経を尖らせてきてきたのだ。
押し入れから段ボール箱を引きし、自分のとの回りの品だけを詰めていく。
引きしの奥から、義母が遺してくれた料理のレシピノートがてきた。表には、義母の丸い字で「なお子さんへ」とかれている。それだけを胸に抱きしめ、浩司と撮った結婚式のアルバムや、佐藤の親族写真には切を触れなかった。
玄関のがりかまちに段ボールを運びした、勝のドアがき、浩司が入ってきた。
数呂にも入っていないのか、伸び放題の無精髭に、見るもなくやつれた顔をしていた。
「……本当にていくのか」
浩司の声には、あのの声のような勢いはなかった。