"6年介護した義父から「息子を信じるな」と電話が来た" 第7話
この町ので、嫁さんが気が向いたに顔を見に来てくれるような、ちゃんとした所をな。わしのと、母さんが残してくれたしばかりの貯で入れる所はないか」
川さんは、力く頷いた。
「ありますよ、忠雄さん。特養(特別養護老ホーム)の待をかけながら、まずはして過ごせる介護付きの受け入れ先を調しましょう。ご本ので選ぶんです。誰かに押し付けられるんじゃありません」
「は……どうしますか」
私が尋ねると、義父はくを見るような目をした。
「あいつの借の穴埋めには円も使わせん。だが、わしが施設に入れば、あのはおと浩司のじゃ。……いや、あんな男と、おがこれからも緒にいる必はないのかもしれんな」
義父の鋭い洞察に、私は息を呑んだ。
「おがどうするかは、お自が決めることだ。わしの介護のために、おのをこれ以削るな。あいつが作った借は、あいつ自に背負わせればいい」
そのだった。
相談のドアがノックもなしに乱暴にけ放たれた。
「やっぱりここにいたのか!」
息を切らしてっていたのは、浩司だった。目のには酷い隈ができ、ネクタイは曲がり、には茶封筒を握りしめている。
「なお子、お……産に余計なことを吹き込みやがったな! 担当の井から『今回の取引は辞退する』って連絡が来たぞ! どうしてくれるんだ!」
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浩司は親族や職員の目も気にせず、相談のへ踏み込んできた。
「親父! 頼むから判を押してくれ! さっき請けの社が会社に鳴り込んできたんだ! 今に付だけでも入れなきゃ、警察に詐欺で訴えるって言われてるんだよ!」
取り乱した浩司が、義父の子にすがりつこうとを伸ばした。
「浩司」
義父のが、部の空気を切り裂いた。
く、けれど芯の通った声だった。かつてさな町をで切り盛りし、職たちを束ねていた頃の、厳格な父親の差しがそこにあった。
浩司のが、空で止まる。
「おは、どこまで堕ちたら気が済むんじゃ」
「親父……だって、会社が……」
「会社を潰したのはおの放漫経営だ。請けへの支払いを滞らせ、親のを騙し取り、嫁を精神に追い詰めて……それが、わしが育てた息子の姿か」
「俺だって必なんだよ!」
「必の方向を違えるな!」
義父は麻痺の残る腕を必に持ちげ、机をバンと叩いた。わずかな音だったが、その気迫に浩司は息を呑んだ。
「は売らん。坪たりとも、おには渡さん。わしの財産はおを甘やかすための具ではない」
「じゃあ……俺はどうなるんだよ! 自己破産しろって言うのか!?」
「破産でも何でもして、から直せ!」
義父の徹な宣告に、浩司の顔から血の気が引いていく。
すがる先を失った浩司は、今度は私に向き直り、震える指を突きつけた。
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「なお子……おの仕業だな。おが親父を丸め込んだんだろ! も連れ添った夫を見捨てるのか!? お、嫁の分際でこのを乗っ取る気か!」
その浅ましい言葉を聞いた瞬、私のので張り詰めていた最の糸が、音をてて切れた。
しみも、も、何も残らなかった。
目のにいるのは、した夫でも、共にを歩んできた伴侶でもない。自分の失敗をすべてのせいにし、老いた親と尽くしてきた妻を都のいい踏み台としか見ていない、ただの卑屈な男だった。
「浩司さん」
私は静かにちがり、バッグのから枚のを取りした。
昨夜、きりの台所で、役所の夜窓から取ってきた類。
緑の枠線が引かれた、婚届だった。
「乗っ取りなんてしないわ。あなたの会社の借も、負債も、私は切背負いません。このはお義父さんのものです。そして、私は今限りで、あなたの妻をやめます」
テーブルのに置かれた用を見つめ、浩司の目が点になった。
「り、婚……? 何を馬鹿なことを言っているんだ、おは」
浩司は乾いた笑いを漏らしたが、その声の端は刻みに震えていた。机のに置かれた緑の枠線の用から、弾かれたように線をす。
「本気で言ってるのか? だぞ。俺たちが緒になってから半世紀だ。俺が会社でどれだけをげ、資繰りに胃を痛めてきたとってるんだ! たかが親父の介護をやったくらいで、調子に乗るのもいい加減にしろ!」