みかん小説
本棚

"15年育てた妹の結婚式で、父に親族席から外された" 第8話

に文字で記されたしい卓札には、はっきりと『藤井真紀様』と印刷されていた。 その隣の、本来なら父親が座るはずだった席は、ぽつんと空いたままだった。父は戻ってこなかったのだ。 親族席の方から、静岡の親戚たちのさな囁き声が聞こえた。

「正彦さんはどうしたんだ?」 「真紀ちゃんが番に座っているぞ……」

その囁きを、私は背で受け止めた。 逃げす必はどこにもなかった。この、私がの保護者として、母親代わりとして、学の体育館のパイプ子にで座り続けてきたと同じだった。私はただ、背筋を伸ばしてを見つめた。

司式者の図とともに、チャペルの方の扉が再び静かにいた。

のに、純のドレスを着たがっていた。 ヴェールをろした妹の姿は、息を呑むほど美しかった。隣には、父親の姿はない。郎の悠さんが、祭壇ので静かに彼女を待っている。

本来の教会式であれば、父親が婦のを取り、バージンロードをエスコートするのが通例だった。 だが、はでっていた。

そして、歩きす直、はまっすぐにを見据え、ゆっくりと歩を踏みした。

父親にエスコートされることのない嫁。 世般の形式から見れば、それはどこか欠けた、完全な入に見えたかもしれない。

広告

参列者のにも、息を呑むような驚きの気配が広がった。

けれど、私には分かっていた。 は、誰かに連れてこられたのではない。自分ので、自分のを歩きしているのだ。

歩、また歩と、純のシルクの裾を揺らしながらがんでくる。 その歩みを見つめながら、私の脳裏に、様々な記憶が馬灯のように蘇っていた。

歳のが、私のさな軽自の助席で、膝のに抱えたリュックサックをぎゅっと握りしめて泣いていたのこと。 狭い畳のアパートで、で並んでべたスーパーの半額コロッケ。 「お姉ちゃん、ののお弁当、タコさんウインナー入れてね」と笑った顔。 の格発表の、掲示板ので私の抱きついてきて、で声をげて泣いたこと。

私は決して完璧な母親ではなかった。 仕事で疲れ果てて、の何気ない儘に声を荒らげてしまった夜もあった。 「お姉ちゃんなんて嫌い、お母さんがきてればよかったのに」と叫ばれて、夜の台所でで声を押し殺して泣いたこともあった。 翌朝、お互いに腫らした目で向きい、めた噌汁をすすりながら「ごめんね」と謝りった。

私たちは、血の繋がった姉妹というだけではなく、お互いのさを補いい、傷つけいながら、臭く積みねてきた『族』だった。

広告

が、私の座る親族席の真横を通り過ぎる。

その瞬、ヴェールのから、の線がすっと私に向けられた。 涙の乾いた、澄み切った瞳だった。 はち止まることなく、私に向かって、ほんのわずかに、けれど確かな確信を込めて微笑んだ。

『見ててね、お姉ちゃん』

声にはさないその唇のきが、はっきりと私の胸に届いた。 私は目がくなるのを堪えながら、く、静かに頷いた。

祭壇ので、悠さんがのを取った。 が並び、牧師のにつ。 父親のという異常な幕けだったはずの式は、その瞬から、厳かで、嘘偽りのない祈りのへと変わっていった。

指輪の交換、誓いの言葉。 が交わす言葉のつひとつが、チャペルの静寂に溶けていく。 ろの席で、修平伯父さんがさくをすする音が聞こえた。の親族席からも、いつしかいぶかしむような空気は消え、の姿を静かに見守る温かな気配が満ちていた。

式が滞りなく結び、退の音楽が華やかに鳴り響いた。 腕を組み、参列者の拍のを笑顔で歩いていくを見送りながら、私は胸の奥底で、何かが静かに音をててれるのをじていた。

終わったのだ。 歳のあのから、私の胸を締め付け続けてきたい鎖が、ようやく完全に解き放たれたのだと。

だが、物語はまだ終わっていなかった。 挙式が終わり、披宴会へと移るのわずかな。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: