"「ママって呼んじゃだめ」そう泣いた五歳の娘" 第13話
また、財産分与および慰謝料の支払いについては公正証を作成します」
健吾は震える指先で類の端に触れたが、持ちげる力すら入らないようだった。
「……面会は。に、会う権利はあるはずだ」
掠れた声で、健吾が呟いた。
「面会交流についても記載してあります」
佐々先が淡々と説を続けた。
「ただし、ちゃんの理定を最優先とし、当面のは第者関のち会いのもと、数ヶに度のから始します。当然ですが、ちゃんに対して母親への隠蔽を指示すること、また貞相などの第者を同伴させることは切禁じます。違反があった、面会は即座に止されます」
健吾は類を見つめたまま、両で顔を覆った。
指の隙から漏れ聞こえる呼吸は荒く、けなく肩が刻みに揺れていた。だが、その姿を見ても、私には憐憫のすら湧かなかった。
自らが蒔いた勝な嘘の種が、すべて自分自に突き刺さっているだけの景だった。
「サインしてください」
私はボールペンを健吾のに置いた。
「をこれ以、の醜い言い訳に巻き込まないために」
数分の苦しい静寂の、健吾は震えるでペンを握り、自らの名を署名欄にき入れた。
のをるペンの乾いた音とともに、続いた夫婦関係の糸が、音もなく断ち切られていった。
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*
それからヶが過ぎ、季節は本格な初へと移り変わっていた。
役所での婚届の受理と戸籍の移を終え、私は旧姓へと戻った。実のくにある賃貸アパートを借り、母の助けを借りながら、しずつきりの活をちげていた。
パート先だった会社でも、これまでの事務処理能力を評価され、週のフルタイム勤務への変更が認められた。活は決して贅沢ではないが、毎の活費との将来のための貯を賄うには分な基盤がいつつあった。
健吾からの養育費は、公正証による取り決め通り、毎滞りなく振り込まれている。莉奈とのの慰謝料請求も、佐々弁護士を通じて公正証による分割払いのが結ばれ、彼女は度と私やのに現れないことを面で誓約した。
現実な続きがつずつ片付いていく方で、私はのと丁寧に向きい続けた。
夜になると、は折、そうな顔で「パパは、のこと嫌いになっちゃったの?」と聞いてくることがあった。
私は健吾を悪者として罵ることはしなかった。父親を全否定することは、自の半分を否定することに繋がってしまうからだ。
「パパはね、のことが好きだよ。でも、パパはとして守らなきゃいけないお約束を守れなかったの。
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だから、今はれて暮らしているんだよ。が悪いことなんて、つもないんだからね」
そう言って抱きしめるたび、の張っていた体は、しずつ柔らかく解けていった。
あの、米粒のようにさく描かれた父親と、顔のない誰かの絵。
ある、はしいスケッチブックをき、そこにきな太陽と、とりどりの陽のを描いた。その真んには、をつないで笑う私と、そして庭の池で泳ぐメダカを指差す祖父母の姿があった。
隅っこにさく追いやられた誰かのは、もうどこにも描かれていなかった。
歳の子どものは、が誠実に向きい、できる居所を与え続ければ、しずつ自らの力で傷を癒していくのだと、私は娘の横顔を見つめながら教えられた。
*
の曜、梅のれに恵まれた幼稚園で、保護者参加の「ふれあい参観」が催された。
の親子制作のやり直しとして園が企画したもので、曜の午ということもあり、園庭にはくの父親や母親たちの姿があった。
私は紺のシンプルなブラウスにを包み、受付で名札を受け取って組の教へと向かった。
廊には、子どもたちがんこになって遊んだ写真や、折りで作った鮮やかな朝顔が飾られている。あののようなたく張り詰めた空気は、もうどこにもなかった。
教の引き戸をけると、内はおもちゃのブロックや絵の具の匂いに満ちていた。