"「ママって呼んじゃだめ」そう泣いた五歳の娘" 第6話
「おい……園にまで何を言ったんだよ! 俺のはどうなるんだ!?」
どこまでも自分の。自分のメンツ。
この男には、娘が受けたの傷など最初から見えていないのだ。その事実に直面した瞬、私ので夫に対するは、完全に滴残らず消えった。
「あなたのなんて、ったことじゃない」
私は淡に言い放ち、ダイニングの子を引いた。
「これからのこと、専を入れて話をめさせてもらうわ。私との活から、あなたを完全に切りすために」
「は……? 専って……婚する気か? たかが回の参観のことで!?」
「たかが回じゃない。あなたがにいてきたヶの嘘、その代償をきっちり払ってもらう」
健吾は信じられないものを見るような顔で私を凝し、それからりと混乱に任せて髪を掻きむしった。
「勝なことばかり言うな! こののローンを払ってるのは誰だとってんだ! おみたいなパートタイマーが、でを育てていけるわけがないだろうが!」
その罵声がリビングに響いたとき、ソファの方からさな泣き声が漏れた。
「……パパ、ママ……やめて……」
が起きていた。タオルケットを握りしめ、怯えた瞳で私たちを見つめている。
健吾は舌打ちをし、私を瞥してから踵を返した。
「やせよ。おがどれだけ無力か、いらせてやるからな」
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玄関のドアが叩きつけるように閉まり、い音がざかっていった。
再び訪れた静寂ので、私はソファへ歩み寄り、震えるをそっと抱きげた。
「、丈夫。もうパパはいないからね」
「ママ……がお話しちゃったから、パパっちゃったの……?」
娘は涙を滲ませながら、また自分を責めようとしていた。
私は娘の濡れた頬を指先で優しく拭い、額にそっと唇を寄せた。
「違うよ。パパがられたのは、パパがいけないことをしたから。はね、勇気をして本当のことを教えてくれた。のおかげで、ママは事なことに気づけたの。ありがとう」
は私の首にしがみつき、胸元を涙で濡らしながら、やがてさく頷いた。
窓のでは、夕暮れのにカラスの鳴き声が響いていた。
健吾が言った通り、私には経済な力も、圧倒なろ盾もないかもしれない。だが、歳の娘を都のいい具として扱い、そのを傷つける父親の元に、この子を置いておくわけにはいかない。
私はを抱きしめたまま、スマホの画面をき、つの番号を呼びした。
画面にる文字は――内の女性向け法律相談窓の連絡先だった。
翌朝、武線の踏切の音がくで鳴り響く頃、私はのを引いて幼稚園へと向かった。
の邪混じりの差しが、娘の細い首筋を照らしている。
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昨夜はほとんど眠れなかったはずなのに、は度もぐずることなく、私の歩幅にわせて歩いていた。それがかえって痛々しかった。
「、今はお絵描きのだったよね」
「うん。陽のおに、カタツムリを描くの」
「に描けたら、で見せてね」
はさく「うん」と頷いたが、すぐに俯いて、私の薬指をぎゅっと握り直した。
園のをくぐると、昨と同じように園庭をり回る子どもたちの声が満ちていた。けれど、昇に差し掛かったところで、はぴたりとを止めた。駄箱の向こう、昨の教がある方向をじっと見つめている。
「ちゃん、おはよう」
駄箱のから現れたのは、田辺先だった。エプロンのポケットにを入れ、いつも通りの穏やかな笑顔を浮かべていたが、私と目がうと、すぐに察したように微かに表を引き締めた。
「ちゃん、今のお当番さん、ブロックのお片付け伝ってくれるかな? 先、ちゃんに頼みたいことがあるんだ」
田辺先がるい声で話しかけると、は私の顔を見げた。
「ってらっしゃい。ママ、夕方には必ずお迎えに来るからね」
私がしゃがんで言うと、はようやく堵したようにさく息を吐き、田辺先に促されて教のへとりで入っていった。
さな背が見えなくなったのを確認してから、田辺先が私に向き直った。
「お母様、職員へどうぞ。園も待っております」
園の空気は、園庭の喧騒から切りされたように静まり返っていた。