"「ママって呼んじゃだめ」そう泣いた五歳の娘" 第1話
園庭から響く子どもたちの歓声と、褪せた靴箱に漂う消毒液の匂いが、やけに鮮にをついていた。
夫の健吾から「園内で邪が流して、今の保育参観は止になった」と聞かされていた。それなのに午、園の連絡アプリから届いた写真には、見らぬ若い女の膝のにちょこんと座る歳の娘・の姿が写っていた。
胸の奥がたく泡ち、私は職のデスクから司にをげてそのまま幼稚園へ駆けつけた。
組の教の引き戸をけた瞬、私と目がったは、あろうことかその女の背へ逃げるようにを隠したのだ。
「ママ、ごめんなさい」
怯えたように震える娘に、どうして謝るのと問いかけると、は泣きしそうな声で言った。
「パパがね、今はママって呼んじゃだめだって。呼んだら、あのお姉さんが泣いちゃうからって」
その言が落ちた瞬、私の元から血の気が引いていくような覚があった。
周囲の保護者たちは、子どもと緒に画用を切り貼りしながら、折こちらに審そうな線を向けている。カラフルな折り、壁に貼られた季節のちぎり絵、にぎやかな笑い声。その常な温もりので、私たちがっている角だけが、氷のように張り詰めていた。
女――代半とおぼしきその女性は、をかばうような姿勢のまま、困惑したようにち尽くしていた。
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化粧に、清潔のある淡いベージュのニット。どこにでもいる普通の、だが私よりらかに若い女性だった。
そのろから、腕組みをした健吾が焦りを押し殺した取りで歩み寄ってきた。
「美咲……なんでここに来たんだよ。パートはどうした」
健吾の第声は、妻への釈でも娘への気遣いでもなく、自分の都が乱されたことに対する苛ちだった。
私は夫の言葉に答えず、まずに膝をついて、の目のさまで線をげた。女のから恐る恐るこちらを覗いているさな肩に、そっと触れる。
「、丈夫よ。は何も悪くない。何も謝らなくていいの」
娘のを握ると、さな指先がえ切っていた。は私の顔を見つめたまま、泣くのを必にして唇を真文字に結んでいる。
何が起きているのか。なぜ夫は嘘をついたのか。この女は誰なのか。
のでいくつもの疑問が渦巻いていたが、ここで声を荒らげれば、傷つくのはだ。私は震えそうになる息をくえ、すぐそばで様子を窺っていた担任の田辺先に向き直った。
田辺先は代のベテランで、普段からの繊細な性格をよく理解してくれている保育士だ。彼女もまた、この異様な空気を察し、困惑した面持ちで私のそばに歩み寄ってきた。
「田辺先、しお伺いしてもよろしいでしょうか」
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私はできる限り平坦な声をした。
「今の親子制作ですが……止になったのではなかったのですか?」
田辺先は目を丸くし、健吾と私を交互に見つめた。
「えっ……止、ですか? いいえ、予定通り催しておりますが。おたよりでもアプリでも、止のご連絡は差しげておりませんよ」
「……園内で邪が流っているということも?」
「数名のお休みはいますが、学級閉鎖や事の止を検討するような状況ではありません。どうしてそんなお話を……?」
先の返答に、健吾の肩がわずかにねた。
やはりそうだったのだ。
園の事は止などになっていなかった。健吾が私に「止になった」と嘘をついたのだ。私がパートのシフトを調して参加しようとしていたのを、あらかじめ潰すために。
「それから、もうつ確認させてください」
私はちがり、健吾の隣につ若い女性を見据えた。
「こちらの女性は、園の方にはどのようなで参加されているのでしょうか」
田辺先は健吾に線を投げ、し言いづらそうに元の席簿をめくった。
「あの……お父様から事に、ご族の『同伴親族』として申請をいただいております。様、ということで……お父様のご親戚の方だと伺っておりましたので、園の規定に沿って入園証をお渡ししたのですが」
田辺先の言葉で、すべてのピースが酷に噛みった。
幼稚園の親族参加ルールを悪用し、健吾は最初からこの女――という女性をに引きわせるために、入に計画していたのだ。