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"捨てられた整備士、沈黙の咆哮" 第23話

「……今ですか」老が静かに尋ねた。

田は作業着の袖で額の汗を拭い、ボンネットの支え棒をして静かにろした。

「かかるかどうかは……回してみないと分かりません」

田は運転席のドアをきくけ放ち、シートを指差した。

「榊原さん。……ご自ので、キーを回してください」

榊原はそのシートを、まるで聖域でも見つめるかのようにじっと見つめた。数秒の躊躇ののち、老は静かに運転席へと腰をろした。

、妻と論になってびし、そして妻とともにを旅した、あの擦り切れた本革のシート。

スプリングがギシリと軋み、老の両がステアリングホイールへと置かれた。その皺いの甲に、青い血管が浮きがっているのが見えた。

そのだった。

のの砂利から、けたたましいスキール音とともに、台のが滑り込んできた。

いライトバン――原オートサービスの川だった。

川はからりると、わざとらしく腕計に目を落としながら、のシャッターの脇へと歩み寄ってきた。

「いやあ、ちょうど良いに通りかかりましたよ。どうですか、奇跡のエンジンは目を覚ましましたかね?」

誰も返事をしなかった。

川はシャッターの鉄骨に背を預け、嘲笑を浮かべながら腕を組んだ。

のに、分の呼吸の音だけが、え切っていく鉄の気配のに沈み込んでいった。

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「……では」

榊原の震える指先が、ダッシュボードのキーにかかった。

度目。

キュキュキュキュキュッ――!

力く、規則正しく、セルモーターが回転した。

しかし、エンジンは沈黙を守ったままだった。シリンダーのでが爆ぜる気配は、微もちがってこない。

榊原の細い肩から、スッと力が抜けていくのが見て取れた。

「……もう度、お願いします」

田の声は、信じられないほど落ち着いていた。

度目。

キュキュキュキュキュッ――! キュキュキュキュキュッ――!

セルは秒、秒と回り続けた。やがて、マフラーのから、燃焼しきれなかったガソリンのたくたい匂いが、モワリと漂いしてきた。

榊原が、キーから指をした。

のが、を打ったようにシンと静まり返った。

シャッターの脇で、川がからく「フッ」と息を漏らした。嘲笑だった。

「まあ……そんなもんですよ。骨董品は骨董品らしく、しくスクラップへ持っていくのが番お似いだ」

笹本は両の拳を固く握りしめた。奥歯を噛み締め、指の関節がく軋む音がした。

そのだった。

田美紀が歩、へと踏みした。

彼女は運転席のかれた窓枠に両をかけ、に座る榊原の横顔を、至距で見つめた。

「榊原さん」

その声には、彼女がこのに来てからの週、度たりとも聞いたことのない、鋼のさと祈りが込められていた。

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「もう度だけ、回してください」

榊原が、々しく首を横に振ろうとした。

「田さん……もういいんだ。君たちの努力は分に……」

「もう度だけ、お願いします!」田は叫ぶように遮った。その瞳は、点の曇りもなく老を見据えていた。「このは、以ものあいだ、配管の底まで燃料が完全に空っぽだったんです! しく引いた細い燃料パイプの先端まで、ガソリンが満ちるのに……あと数秒だけ、がるんです!」

榊原の瞳が、見かれた。

老は息を呑み、再びを伸ばすと、たいキーへと指先をかけた。

度目。

キュキュキュキュキュッ――!

秒。

秒。

そして、秒目のセルの回転の途で――。

その単調な属音のに、突如として、別の音が混ざり込んだ。

ズォンッ――!

く、太く、を揺るがすようなな振が、のコンクリートを通じて笹本のの裏を激しく叩いた。

次の瞬。

暁2000クーペのデュアルマフラーのから、純の排気煙が筋、勢いよく吹きがった。

ボオォォォォォンッ――!!

半世紀の名、直列気筒DOHCエンジンが、数の設計図と寸分違わぬ爆発のサイクルで、ついに目を覚ましたのだ。

のトタン根が、ビリビリと激しい振をてて共鳴した。

最初は荒々しく暴れていたアイドリングの回転数は、田がキャブレターのスロットルスクリューをわずかに指先で回すと、吸い込まれるように落ち着きを取り戻し、ドッドッドッドッ……という、力く、どこまでも規則正しい音の鼓へと変わっていった。

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