"捨てられた整備士、沈黙の咆哮" 第10話
肉な耐油ホースの内側のゴム層に、経劣化による微細なひび割れが、まるで網の目のように無数にっていたのだ。
加圧されたガソリンが、その内側の微細なクラックから極微量ずつ滲みし、エンジンのと排気マニホールドのによって、側に漏れる端から瞬に気化して蒸発していたのだ。だからこそ、体のにも垂れず、目の液体としての漏れも確認できなかったのだ。
「……あとし亀裂がんでいたら、速ので吹きしていました」
田の静かな声が、夕暮れのにく響いた。
ガソリンが温のエキゾーストパイプに吹きかかれば、どうなるか。瞬でだるまになり、両災を引き起こしていたはずだった。
笹本は田のからその千切れたホースを受け取り、自らの先にづけてみた。
微かに、甘くたい芳族化物の気配が、腔の奥をゆっくりと撫でていった。言われてみれば、確かにそれはガソリンの匂いだった。だが、事に何もらされずにこの微かな分子の気配に気づけたかと問われれば、笹本の答えは最初から決まっていた。絶対に能だった。
その夜、笹本は事務所の机のの元帳をかなかった。
シャッターを半分だけろし、の灯のが細く差し込む暗いので、笹本はえ切った鉄の回転子にく腰掛けたまま、煙も吸わずにただで考え続けていた。
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度だけなら、単なる偶然の産物だと片付けることもできる。
度続いたとしても、運が良かっただけのマグレだと弁することだってできるかもしれない。
だが、笹本はこの臭い世界できてきたのだ。マグレや偶然だけで、式も構造も違う軽トラックの、ゴムホースの「内側のひび割れ」を嗅ぎ当てられるなど、この世にするはずがなかった。
田美紀という備士は、作業が遅いのではない。
いや、確かに現代の理化された基準から見れば、致命なまでに遅いのだ。
だが――その「遅さ」と、の誰もが見落とす淵の欠陥を「見通す力」とは、実はコインの裏表のように、全く同じつの本質なのではないだろうか。
翌朝、笹本は当を入れるための茶封筒を用しなかった。
その代わりに、彼は事務所の入りの壁に掛けられていた、埃をかぶった古い製の名札掛けのにった。かつて先代の代、何もの職たちの名が並んでいたその枠の、笹本の名札のすぐ隣の空席に、彼はいプラスチックの札を枚差し込んだ。
油性のマジックで、器用にかれた文字。
『田』
田がその札に気づいたかどうかは、笹本には分からなかった。ただ、そのの朝から、彼女は笹本から鍵を受け取るのではなく、壁にかかったの鍵を自らので静かに取り、作業のシャッターをけるようになった。
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型の両積載が、響きのようなディーゼルエンジンの唸りを響かせながらのにしたのは、その週の曜の午のことだった。
油圧シリンダーのい作音とともに、積載の荷台が斜め方へとゆっくりとスライドしていく。属ワイヤーが巻き戻される甲い軋み音をて、台のが、傾斜したスロープを滑りりてきた。
く、極限までシェイプされた美しいクーペだった。
現代の流線型ののような、洞実験からまれた丸みを帯びた膨らみはどこにもなく、鋭利な直線と張り詰めた平面だけで構成された、昭の彫刻のような佇まいをしていた。
い濃紺のボディ塗装は、鏡のように極限まで磨き込まれており、曇り空のたい鉛のをそのままボディサイドに映ししている。のスチールバンパーには点の曇りもないクロームメッキがく輝き、びの傷ひとつ見当たらなかった。
笹本は持っていたスパナを止め、吸い寄せられるようにそのへと歩み寄った。
「……自の、暁2000クーペか」
昭代の初、国内ラリーで華々しい戦績を残しながらも、オイルショックと排ガス規制の荒波に呑まれ、わずか数で産を終してしまった伝説な名だった。