"捨てられた整備士、沈黙の咆哮" 第9話
『来、孫を乗せてまでるんだ』と、嬉しそうに語っていたあの笑顔。
もし、この亀裂に気づかないままを引き渡していたらどうなっていたか。速を、あるいはの急カーブでい横Gがかかった瞬に、このセンチの亀裂が気に破断していたら――。軸は瞬にして支持を失い、サスペンションはれ、体は制御能となって横転していたに違いない。
速でそれが起きた、乗っていたがどうなるか。その惨劇の景を、笹本は嫌というほどっていた。
みぞおちの奥くに、氷の塊を直接押し当てられたかのような悪寒がり、胃袋がきつく縮みがった。
そのの午、笹本から連絡を受けた端田さんは、作業着のまま慌ててへと駆けつけてきた。
リフトのに潜り込み、笹本が指差したその亀裂を、端田さんは言葉を失ったまま、数秒じっと凝していた。やがてリフトのからいてきた、端田さんの浅黒い顔からは完全に血の気が引き、気になっていた。
「笹本さん……ありがとう、本当にありがとう……」
端田さんは震えるで笹本のを握りしめ、何度も何度もをげた。だが、笹本はその謝の言葉を、どうしても素直に受け取ることができなかった。
見つけたのは、自分ではないのだから。
端田さんが代に乗ってった、の真んで、笹本は具を片付けていた田の背に向かって問いかけた。
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「……おい。田」
田はワイヤーブラシをツールトレイに戻すを止め、振り返った。
「どうして、あの所を見たんだ。ブレーキをいくら調べても原因がなけりゃ、普通は『異常なし』で済ませるはずだ」
田はし首を傾げ、自分の記憶をまさぐるように線をさまよわせた、ぽつりと言った。
「……音が、ブレーキの構ので完結していませんでした」
「それだけか?」
「はい。それだけです」
何の論理な説にもなっていない、覚すぎる答えだった。だが、笹本はそれ以、彼女を問い詰める言葉を見つけることができなかった。
そのの終わりに彼女へ渡すはずだった解雇の言葉は、ついに笹本のから発せられることはなかった。
台目の異変が起きたのは、それからわずかのことだった。
所で個運送業を営んでいる男が持ち込んできた、数万キロを破した古い軽トラックだった。エンジンの吹けがりが悪く、折息継ぎをするようなノッキングが発するという訴えだった。
笹本が自ら点検を担当し、イグニッションコイルの抵抗値を測り、消耗していた本のスパークプラグをすべて品に交換した。周辺の坂を試運転し、回転まで綺麗に吹けがることを確認した笹本は、「点系の良による失」と判断して作業完の伝票を切った。
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夕方、運送がを引き取りに現れ、笹本がキーを渡そうとしたまさにその瞬だった。
の奥から歩みてきた田が、軽トラックの閉ざされたボンネットので、唐突にを止めた。
彼女は線を斜めに落とし、先を微かにかして、静かに、く空気を吸い込んだ。
「笹本さん、ちょっと待ってください」
「あ? もう試運転も終わって、今から引き渡すところだぞ」
「……匂いがします」
田はそう言い放つと、の隅のドラム缶から真っなしいウエスを枚引き抜き、軽トラックのボンネットをけ放った。
彼女はエンジンルームの奥、属製の燃料パイプからインジェクターへと繋がる細い燃料ラインに沿って、そのいウエスを押し当て始めた。箇所、また箇所。エンジンの余が残る配管の継ぎ目を、傷を恐れる様子もなく、指先で丹に辿っていく。
箇所を超えたあたりで、田のがピタリと止まった。
引き抜かれたいウエスの先端に、直径センチほどの、ごく微かな淡い黄の染みが浮きがっていた。
「……ここです」
問題の所は、属配管がゴム製の圧耐油ホースへと切り替わる、カシメ具のすぐ根元の継ぎ目だった。
ホースの側には、亀裂も膨らみも、湿り気すら切見当たらなかった。だが、田がドライバーでホースバンドを緩め、具からゴムホースを引き抜いた瞬、笹本はわず息を呑んだ。