"末席の男が放った三百億の通告" 第35話
久エリは最尾を歩き、扉をる直、振り返って俺に向かって々とをげた。何も言わなかった。何も言わないことだけが、このの彼女に残された、唯の正しい振るいだった。
苗が先導してエレベーターホールまで見送りにて、分に会議へと戻ってきた。
「社。エレベーターので、取が久次に、言だけ仰っておられました。『私は聞くつもりはなかったのですが、聞こえてしまいましたのでご報告いたします』」
「……何と言っていた?」
「『今、度と仕事ので私の名をすな』と。……ご自の、取という名のことかとじます」
苗はそう告げると、礼して自席へと戻っていった。
会議には、俺と柴田、そして井のが残された。
井が腕組みを解き、ちがりながらいつものい言を落としていった。
「社。……いい席だったよ」
部に残った柴田が、く子に座り直した。
「社」
「ん?」
「分の答え、確かに頂戴いたしました」
柴田は、鞄の留めをパチンと鳴らして閉じた。
「私が申しげてきたことは、財務の正論として違っておりませんでした。……ですが、社が断り続けてこられたことも、として何つ違っていなかった。経営の世界において、両方の正義が同に成することがあるのですね」
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「あるらしいな」
俺が苦笑すると、柴田は鏡の奥の目を細め、こので初めて声をげて笑った。
「ええ。……財務担当役員としては、たまったものではありませんがね」
その週の曜、の朝。
元経済誌のウェブ版に、本のスクープ記事が掲載された。
あさぎホールディングスが取引先各社に向けて振込指定座の変更案内を斉に送付し始めたことから、記者が嗅ぎつけたものだった。
『あさぎホールディングス、主幹事および預託座をメガバンクへ分散移』
記事のに、「百億円」という具体な額は掲載されていなかった。守秘義務があるため、うちも王も数字は切さなかったからだ。
だが――元の同窓会のグループLINEを炎させるには、その記事だけで分すぎる破壊力を持っていた。
夕方を過ぎた頃から、スマートフォンの通が鳴り止まなくなった。
『あさぎホールディングスって、弘の会社じゃねえか!?』
『代表者:堀弘っていてあるぞ! 嘘だろ!?』
誰かが経済誌の記事のスクリーンショットをタイムラインに貼り付けた。
『社員千、グループ売千億……!? 百億の解約って、マジだったのかよ!?』
『同窓会でエリが言ってたの、これのことだったのか!?』
そして、岡崎からの文のき込みが投された。
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『弘、すげえよ! お、なんで同窓会の言ってくれなかったんだよー! 臭いぜ! 今度うちの産会社と組んで、しい物流倉庫の案件やろうぜ! 連絡待ってるからな!』
それに呼応するように、数の同級たちから、涛のような媚びへつらいのメッセージが崩を打って押し寄せてきた。
『弘君、昔から物だとってた!』
『今度、京くから奢ってよ!』
『個の連絡先教えて! 名刺交換しよう!』
俺は、そのどれつに対しても返信をしなかった。
返信をする理由が、どこにも見当たらなかったからだ。
数字のきさをった瞬にのひらを返して擦り寄ってくるに向けて放つ言葉など、俺は持ちわせていなかった。の教でも、そして今も。
そのの夜。
騒がしいグループLINEの通をミュートにし、斎で類を理していたとき、画面に通だけ、個別のメッセージが届いた。
田貞子からだった。
『ちゃんと、寝てる?』
たったそれだけだった。
経済誌の記事のことにも、会社の売のことにも、百億という数字のことにも、言も触れていなかった。
彼女が記事を読んだのかどうかすら、その文面からは分からない。ただつ確実に分かるのは、このが配しているのは「あさぎホールディングスの社」ではなく、「堀弘というの」
ただであるということだった。
同窓会の夜、ホテルの玄関先で『そっちじゃなくて、無理してないかなって』と言ってくれた、あのの温度そのものだった。