"末席の男が放った三百億の通告" 第34話
エリは、促されるまでもなく、さく「はい」と答えた。
その掠れた返事だけが、この会議で彼女が発した言葉ので、唯、の員らしい響きを宿していた。
俺は、このやり取りの、度もを挟まなかった。
内に対する断罪を、あえて顧客の面でうと決断した久隆史という男の、バンカーとしての凄絶な覚悟を、ただ無言で受け止めること――それが、この席において俺ができる唯の誠だったからだ。
柴田は隣で、類を几帳面に折り畳んでいた。
曜に徹夜同然で作成した理由の写しを、折り目に沿って静かに畳み、鞄の奥へと仕い込む。もう、このの役目は完全に終わったのだという、職の仕い方だった。
壁の計が、午を指した。
面談が始まってから、ちょうどが経過していた。
久取は娘から線をし、子をわずかに引いて背筋を伸ばした。王の最権力者としての、威厳ある姿勢に戻っていた。
「堀社」
「はい」
「最に、つだけ伺ってもよろしいでしょうか」
「どうぞ」
「……あなたはなぜ、、沈黙を守り続けてこられたのですか? 同級たちに嘲笑されても、私の娘に零細企業と見されても……なぜ、自らの正体をかさなかったのですか?」
それは、責めるための問いではなかった。
として、経営者として、純粋な疑問としての問いかけだった。
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俺は、端の席でうつむく久エリへと線を向けた。
「久さん」
エリが、怯えたように顔をげた。
「俺が、あなたのお父にすがったのは……の百万円、あの度きりです。それ以来、俺はただの度もお父に頼ったことはありません。頼まずに済むように、を啜って働いてきました。お父に会わずに済むように、京で必にを固めてきました。最初の百万円を完済したあとも、預だけは王に預け続け、取になられたお父への表敬訪問の請も、すべて断り続けてきました。……会えば、どこかで『取のろ盾に頼る』甘えがじてしまう。頼らないとに決めていたからです」
エリは、息を殺して俺の言葉を聞いていた。
「ですが、あなたは――、父親の力に頼り続けてきてきた」
俺は久取へと向き直った。
「私が沈黙を守ってきた理由は、それです。……あなたに巨な恩義のあるが、あなたの娘の幼稚な挑発に対して、会社の規模を誇示して言い返すことなど、できるはずがありません。同窓会の席で、彼女が『取の娘だ』と威張り散らしたとき、俺の脳裏に浮かんでいたのは、に古トラックを見に来てくださった、あなたの真摯な姿でした。言い返す言葉など、いくらでもありました。だが、言い返さなかったのは――あののあなたに対する、私なりの敬だったのです」
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久隆史は、い、じろぎつしなかった。
やがて、その唇から、震える声が漏れした。
「……あなたの経営判断は、寸分の狂いもなく正しい」
久取は、はっきりとした声で言った。
「もし私が今、支のであったとしても、あなたに対して同じ資分散を言したでしょう。取の娘が私な酒の席で取引止をにするようなに、百億円もの切な資を預けておいてはならない。……それは、に私があなたに教えた、『信用は帳簿で作るものだ』という教えそのものです。教えたの実の娘が、名刺の裏きつでその信用を破壊した。あなたは、私の教えの通りに正しくかれたに過ぎない。私に、それを止める資格など微もありません」
久取はちがった。それに従い、王の名もちがる。
俺はテーブルの央に置かれていた名刺をに取り、表面をにして、久取のへと両で差しした。
「これは、お返しいたします。……の、切な備品ですから」
久取は、両で恭しくその名刺を受け取った。
そして裏返して娘のいた文字をもう度だけ見つめ、静かにスーツの内ポケットへと収めた。
「……確かにお預かりいたします」
それが、ぶりに再会した恩と交わした、最の言葉となった。
名が、静かに会議をにした。