"末席の男が放った三百億の通告" 第32話
久取は、微だにしなかった。
娘の顔を見ることすらなく、俺の方を向いたまま、く、い声で語り始めた。
「……エリ。おに、話しておかなければならないことがある」
エリが怯えたように父親を見た。父親は娘を見ない。
「曜の夜、おに言ったな。『百億は本当にある、おが笑った男は最級の顧客だ』と。おは『嘘でしょ』と言った。先起案した提案の宛先すら見ていなかった。……そして今、堀社が仰ったの真実を、おは初めてった。私も曜の夜まで、堀社があのの青だとは結びついていなかった。結びついてから、私は痛烈に考えたのだ。……なぜ、私はおをこのに連れてくる決断をしたのかを」
久取は、そこで初めて娘へと線を向けた。
「調べさせた。今回だけではなかったな」
宮が、元の分いファイルを枚めくった。
「久次に関する、過の内相談記録の概です。本来、コンプライアンスの相談内容は極秘事項ですが、本は取の厳命により、件数と類型のみをご報告いたします」
宮の淡々とした声が、静かな会議に響き渡る。
「記録に残っているものだけで、計件。『私の父は取だから』という趣旨の威圧な発言が確認されております。内訳は、直属の部に対する圧な言が件、取引先企業に対する横柄な対応が件、自らの所管の融資案件への当なしが件です」
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宮はファイルを閉じ、徹に付け加えた。
「なお、部からの相談件につきましては、相談者本が『相が取のご令嬢であるため、事にしないでほしい』と懇願し、握りつぶされる形となっておりました。記録には残されていたものの、取のには切届かないに葬られていたのです。……それに加え、今回の同窓会における密漏洩および威圧為、ならびに曜昼のSNSにおける内状況の無断投稿。すべて、事実関係を確認済みでございます」
件。
経営企画部の次という職に就いてからのだけで、それだけの正と越権為が積みなっていたのだ。
「件のどれつとして、私のには入っていなかった」
久取が、自嘲気に呟いた。
「入っていなかったのではない。誰も、私のに入れることができなかったのだ。取の娘の祥事を、取本に直訴できる員など、このにはしなかった。……それを曜に宮から突きつけられた、私は己の罪さに戦慄した。おの処分を内だけで秘密裏に処理し、堀社には面で結果だけを伝える――組織のとしては、それが最も傷の浅いやり方だっただろう。だが、私はそのを選ばなかった。選べなかったのだ。……なぜなら、堀社の百億円は、私の百万円の信用から始まっていたからだ」
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久取は、テーブルのの名刺を凝した。
「……この字は、私が教えた字だ」
エリの肩が、びくりとねがった。
「、おが本部に配属された、同期の員が担当していた案件で、おは私に『パパ、何とかしてよ』と泣きついてきたな。私は担当部に、ほんの言だけ添えをした。それで案件はいた。……おは、その部始終を見ていたのだ。たった度でいい。『パパに頼めば何でもい通りになる』という奇跡を度でも見せてしまえば、子供はそれを絶対の真理として刷り込まれる。……、その悪魔の種を蒔いたのは、ならぬ私自だったのだ」
古川部が、苦渋に満ちた表で線を落とした。当の案件を記憶しているのだろう。
宮が顔をげると、久取は静かに命じた。
「宮、今の言葉も記録に残せ。私の、組織としてのな背任の記録だ」
そして取は、再び娘へと向き直った。
「、私は堀社に『帳簿を完璧にしろ、信用は帳簿で作るものだ』と説いた。……しかし同じで、私は実の娘に対して『困ったらパパに言え』と言い続けて育ててしまったのだ。のが、の息子と自分の娘に対して、完全に真逆の教育を施した。その無残な結果が今、このテーブルのに並んでいる名刺だ」
久取の声は、もはやりではなく、いに満ちていた。