"末席の男が放った三百億の通告" 第28話
「何だ?」
『なぜ……なぜ、王さんだったのですか?』
俺はコーヒーカップをテーブルに置いた。
『私が、どれほど正論を尽くしてリスク分散を具申しても、社は決して王さんから資をかそうとはされませんでした。曜の席で、社が取に対して何を仰るのか、私は財務責任者として隣で聞くことになります。その、私だけがその理由をらないのは……し、困ります』
柴田は、どこまでも実直で誠実な男だった。
「……曜の席で話すよ、柴田。おもそので聞いてくれ」
『……承いたしました』
柴田の疑問は、プロフェッショナルとして百パーセント正しかった。
百億円もの巨額資を、方港に集させておくことなど、代な財務管理の観点からは狂気の汰だ。柴田は、正しいことを言い続け、俺は、経営者として正しくない選択を頑なに選び続けてきた。
その歪んだ選択の根底にあった理由は――の、あのにあった。
曜の午。
俺のスマートフォンに、同窓会のグループLINEとは別に、見らぬアカウントから個別のメッセージが届いた。
久エリだった。同窓会の夜、俺は彼女に連絡先を教えていなかったが、グループのメンバー覧から個別のトークを送ることは容易だった。
『弘、ごめんね。
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同窓会のあれは、本当にただの冗談だったの! 本気で取引を切ってもらうつもりなんて全然なくて、ただお酒の勢いで……それに田貞子が変な空気にするから、私もついムキになってく言っちゃって。パパには、これ以何も言わないでほしいの。お願い、度だけでいいから話で話せない?』
俺は最まで徹に読み、画面を閉じた。
返信はしなかった。既読のマークだけが、彼女の画面に残されたはずだ。
曜の夜にき込みを消し、曜の昼にこのメッセージを送ってくる。
父親からどれほどの叱責を受けたのからないが、その文面には自らの犯した罪に対する反省など、微も含まれていなかった。
冗談だった。
の勢いだった。
貞子が変な空気にした。
パパには言わないで。
つのい文章のに、つの卑劣な逃げが綺麗に並んでいた。
自分の為の醜悪さに目を向けることなく、に責任を転嫁し、保のためだけにすがりついてくる。
貞子の名をしたのは、俺と貞子が親しいのをっていて、それを利用すれば俺がに流されると計算したからだろう。あの円卓で、最悪の空気を作りした張本が誰であったのか、この女は今なお理解できていなかった。
父親に頼んで威張り散らし、その父親に見放されそうになると、今度は被害者である俺に泣きついて頼み込む。
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頼む相の顔が変わっただけで、誰かの力に依してきようとする本質は、代から何つ変わっていなかった。
曜の夜。
俺は自宅の斎にち、本棚の隙にを差し入れた。
指先が、に焼けて角の丸くなった、あの冊の学ノートに触れた。
引き抜いてデスクのに置く。
表のの隅。消しゴムで度消して、丁寧にき直された鉛の文字が、く、しかし力く残っている。
『分からないところあったら、聞いて』
ページをめくる。の、母の病状と貧困に喘ぎながら、俺が必にき抜いていた々の記録。最のページの付は、。卒業式のだった。
そのの欄には、黒板の板ではなく、たっただけ、こう記されていた。
『卒業、おめでとう』
俺はそこでノートを閉じた。
裏表の内側は、かなかった。そこをくのは、本のでなければならないと、にに決めていたからだ。
俺はそのノートを、久エリの名刺を挟んだ帳と同じビジネスバッグの底へと、静かに収めた。
曜、午ちょうど。
あさぎホールディングス本社階の第会議の扉がき、王の名が無言で入してきた。
先にっていたのは、取の久隆史だった。
歳。く刈り込まれた総髪に、黒にい濃紺のスーツを完璧に着こなしている。
聞の事欄で見た写真よりも幾分痩せて見えたが、背筋は針のように真っ直ぐに伸びていた。