"末席の男が放った三百億の通告" 第20話
古川部に何の落ち度もない。真面目に職務を果たしてきた優秀なバンカーだ。だが、だからこそ俺は話にるわけにはいかなかった。れば、何の罪もない古川部に無な謝罪をさせてしまうことになるからだ。
午。
取引先の資材商社数社から、うちの財務部宛てに「王さんから何か探りを入れるような連絡があったが、何かトラブルでもあったのか」という問いわせが入り始めた。王の営業マンたちが、事態の真相を掴もうと取引先にまで探りを入れているらしかった。柴田は「振込指定座の変更に関する事務続きです」とだけ答え、余計な弁解は切にしなかった。
午。
「件です」
苗が持ってきた記録用は、枚目の裏までびっしりと埋まっていた。
同じ件、同じ返答。苗は回、寸分違わぬ静な声で話を受け、同じトーンで面談を断り続けた。
会えば、必ず条件闘争になる。『利を引きげます』『数料を免除します』『担当役員を更迭します』『取が直接お詫びに伺います』――そうした先の条件交渉の席に持ち込まれることは、目に見えていた。
だが、これは条件の問題ではないのだ。
百億円の資の置き所を決めるのは、預託者であるこちらの権利だ。理由に記したの名刺の裏き、それ以の何を説する必があるというのか。
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午分。
柴田が静かに部に入ってきた。その直、井がドアの隙から顔をし、「杉支は真面目な男だよ、社」とだけ言い残してっていった。
「社、京支が『入力ミス』という逃げを完全に諦めました」
「どうして分かる?」
「定期預億円の途解約続きが、システムで正式に受理され、処理プロセスへと移しました。続きをめたということは、通を正規の解約として受け入れたということです。……それからもう点。法営業部が、名刺の写しを本のコンプライアンス統括部へ正式に回章いたしました」
「そうか」
「ここまでは、私の定通りの展です。……ですが、ここから先は定の側へと突入いたします」
「何が起きる?」
「コンプライアンスが正式にいた以、事態は現の支や営業部のを完全にれます。本の役員会、そして――久取本のデスクへと、直ちにお盛りの報告ではなく、々しい理由そのものががります。取が理由を読めば、そこに記された実の娘の名と、あの名刺の跡を直することになります」
柴田は静かに鏡の奥の瞳をらせた。
「社は……それをすべて見越して、理由をかせたのですね」
「届かなければがない。そのためにいた」
俺が伝票を枚めくると、柴田はく礼して退していった。
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午。
苗が、今度はぶらで社の扉をノックした。
「社。王の古川法営業部と、京支の杉支が、アポイントなしでお見えになっております。『玄関先で結構ですので、どうか目だけでも社にお目にかかりたい』と……」
「……応接に通してくれ。分だけを取る。柴田と井も同席させてくれ」
普段であれば、アポイントなしで押し寄せる員など払いにするところだった。だが、このを追い返すわけにはいかなかった。追い返せば、彼らは「会えませんでした」と本に報告せざるを得ず、それがの事の落ち度になってしまう。彼らに何の落ち度もないことは、俺が番よくっていた。
役員応接の扉をけると、濃紺の仕ての良いスーツにを包んだ古川部と杉支が、直の姿勢で待っていた。
古川部は歳、杉支は歳。どちらも、王のエリートコースを歩む優秀なバンカーだ。
「堀社、突然の無礼なご訪問、平にお許しください」
古川部が、腰を直角に折ってくをげた。杉支もそれに倣い、くくを垂れる。
「どうぞ、お掛けください。次の予定がありますので、分だけしかおは取れませんが」
テーブルを挟み、俺のに柴田と井がつき、向かい側に古川と杉が座った。