"末席の男が放った三百億の通告" 第14話
「今ここで、みんなのでげてくれたら、許してあげてもいいよ? パパの代わりに、私がさ」
いつのにか、円卓の周囲には次会への移を待つ同級たちが数、面半分に輪を作って集まり始めていた。何が起きているのかを見物に来た、退屈しのぎの野次馬の顔だった。
俺は、自分がその見世物のに置かれていることに対して、議なほどりをじていなかった。ただ徹に、事態の推移を眺めていた。
「をげる理由は、さっき言った通りだ。……何もない」
「……は?」
エリの声が、オクターブくねがった。肩に乗せられていた彼女のが、弾かれたようにれる。
「ないって何よ! あっそ、じゃあもうらない!」
プライドを傷つけられたエリは、矛先を変えるように隣の貞子へと向き直った。
「貞子もさ、弘にちゃんと言ってあげなよ! 友達なんでしょ?」
「何を?」
貞子が静かに問い返す。エリは差し指で俺を乱暴に指し示した。
「に逆らったら終わりだってこと! ……あ、そっか。図館じゃそんなビジネスの常識、分かんないか! 図館なんて、税で本並べて座ってるだけの仕事だもんねー!」
貞子の顔から、すっと血の気が引いた。
だが、その声のトーンは、微も揺らがなかった。
「……本を並べるのも、派な仕事だよ」
「はいはい、そうだね! 偉い偉い!」
またしても『偉いね』だった。
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そのとき、台のでの案内を終えた松本が、マイクを片にに円卓へと戻ってきた。俺とエリのに割り込むように割って入る。
「おい久、その辺にしとけ!」
「何よ、松本くん。幹事のくせに偉そうに仕切らないでよ」
エリは、自分よりもつ背のい松本を、見げる位置から見すようなたい線で睨みつけた。
「松本くんの会社さ、来にきな借り換えの審査があるんでしょ? うちの担当者、私の同期なんだよねー」
松本の体が、のように直した。マイクを握る指先がく変していく。
「……それ、今ここで言う話かよ」
「言っちゃ悪い? 本当のことじゃん」
エリは、松本が握るマイクの属部分を、ネイルを施した差し指でツンと叩いた。
「幹事なんだから、来もよろしくね。パパにも松本くんのこと、よーく言っとくから」
松本は何も答えなかった。答えられなかったのだ。
マイクを握り直し、うつむいたまま台の袖へと引き返していく松本の背は、の堂々とした徒会のそれではなく、いノルマと活を背負った、しいの勤めの背そのものだった。
その背を見送る俺の胸の奥で、温度計の針がまた段、カチリと音をてて氷点へと落ちた。
松本の会社の融資の借り換えは、その企業と王とのの厳格な守秘義務に基づく問題だ。
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同窓会の幹事の男を脅迫するための具にしていいはずがない。担当者が同期であるなどという内部報も、部者ので漏らしていい話ではない。
この女は、この夜だけで、融関のとして犯してはならない罪を体いくつねたのか。
途で数えるのをやめた。数えたところで、朝すべき結論が変わることはないからだ。
エリは満そうにを鳴らし、岡崎と取り巻きを引き連れて、宴会のへと向かって歩きした。ので、彼女は通りかかる同級たちに再びい名刺を配り始めている。受け取る側も、渡す側も、それがどれほど危険な代物であるかを誰として理解していない、無邪気で愚かな笑顔だった。
の扉をくぐる直、エリが振り返り、俺に向かってを振った。
「弘ー、次会来なよ! げるなら、居酒の座敷でも受け付けてあげるからさ!」
俺は返事をしなかった。
その瞬、着の内ポケットで、スマートフォンがブブッとく振した。
取りして画面をくと、財務責任者の柴田からの返信だった。
『承いたしました。朝、本社会議を押さえました。取締役名にも連絡済みです』
刻は、午分。
俺が指示を送ってから、わずか分しか経っていなかった。
柴田自、お盆休みで埼玉の自宅で族と過ごしていたはずだった。
そのわずか分のに、散り散りになっている取締役に連絡をつけ、会議の配を完させたのだ。