みかん小説
本棚

"末席の男が放った三百億の通告" 第7話

それが終わると、自転をばして国沿いの運送会社の物流倉庫へ向かい、夜の仕分け作業の現に入った。

労働基準法の規定により、歳になるまでは夜のでタイムカードを押して帰された。だが歳を迎えた翌からは、付が変わる夜、まで荷物を積みろした。

の制は、入学に買った着を着倒した。背が伸びて丈がくなると、母が夜なべをして別の布を裾に継ぎしてくれた。通学カバンは、学の先輩から譲り受けたおがりだった。ブランドのロゴが入ったスニーカーや文具など、俺はつも持っていなかった。学の制よりも、弁当の油の染み付いたエプロンの方が、よほど体に馴染んでいた。

弁当の主は、閉作業が終わると、売れ残った幕の内弁当や唐揚げをつ、ビニール袋に入れて必ず持たせてくれた。

そして、自転に跨がる俺の背に向かって、いつも同じ言葉を掛けてくれた。

『弘、も頼むな』

その言があったから、俺はどんなに体が軋んでも、翌またへくことができた。

同される惨めなではなく、必とされ、頼まれる側にてる所。あの頃の俺の世界には、そのさな弁当の厨と、埃まみれの物流倉庫のレーンしかしなかった。

広告

だが、学の教という所には、そうしたの境遇の綻びを、残酷なほど正確に見つけすが必ずいる。

久エリは、そのだった。

『弘ってさ、いつも働いてるよねー』

昼休み、夜作業の疲労で机に突っ伏して眠っていた俺のので、エリは楽しそうに声をてて笑った。彼女を取り巻くグループの女子たちも、斉にクスクスと笑い声をねる。

『学とかけるの? おないんでしょ?』

の、希望調査の用が配られたの放課にも、エリは俺の机のにち塞がってそう言った。

俺は最初から学学など考えていなかった。配られたいの第希望の欄には、迷わず『就職』の文字をき込んだ。

エリはそのをから覗き込み、わざとらしくを叩いた。

『だよねー! 弘は働くのが仕事だもんね!』

俺は何も答えなかった。答える言葉を持っていなかった。

歳の俺の元には、エリの傲な言葉をね返すための材料など、何つしなかったのだ。あるのは、弁当の百円と、夜倉庫の百円。そして、そのつを算してもなお赤字を刻み続ける、母の古びた計簿の数字だけだった。

エリの父親はその頃、隣のの王の支だった。

エリは教のあちこちで、まるで自分の柄であるかのように父親の権威を振りかざしていた。

広告

『うちのパパは支だから』

『うちのパパに頼めば、体のことは何とかなるの』

歳のエリのから、すでにその言葉は常に紡ぎされていた。そして当の教では、それが実際に通用してしまっていた。担任の教師ですら、元の力の支の令嬢であるエリには、どこか段甘い態度を取っていたのを覚えている。

そしてが過ぎた今夜。

豪華なホテルのシャンデリアので、エリのから発せられている言葉は、あの埃っぽい教で吐きされていたものと、何つとして変わっていなかった。

変わっていなかったのは、俺の座らされた末席の円卓だけではなかったのだ。

追憶の底から識を戻すと、エリはまた別の華やかな卓の輪ので、甲い笑い声を響かせていた。の端だけを吊りげ、目は相のなりや計のブランドを品定めしているあの独特の笑い方も、昔のままだった。

俺は元のぬるくなったビールをだけ喉に流し込んだ。

彼女が配り歩いていたあのい名刺は、まだ俺の元には枚も届いていなかった。

乾杯の発声から分ほどが経過した頃、俺の隣のパイプ子がカタリと音をてて引かれた。座っていた男が、酒を注ぎに別の卓へと移したのだ。

その空いた席へ、料理の載ったい皿を両で持った女性が、音もなく滑り込むように座った。

「弘君、久しぶり」

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: