"末席の男が放った三百億の通告" 第3話
正面の台のには、県の章と『第何期同窓会』という文字が糸の刺繍で染め抜かれた、巨な横断幕が厳かに掲げられている。
壁際にはの保温器が並ぶ料理の台が連なり、黒いベストを着たホテルの仕たちがの皿を忙しなく補充して回っていた。井に吊りげられた巨なシャンデリアの眩いので、百分の声と笑い、グラスの触れう属音が、つの巨な奔流となって空を渦巻いている。
その騒々しい渦ので、周囲の喧騒を切り裂くように、際よく通る甲い女の声が響いていた。
「うちのパパ、今、取なのよ!」
久エリだった。
入に最もい、台の真正面に据えられた座の円卓の横にち、細い指先でい名刺を周囲のに配り歩いている。にまとったワンピースは目を射るようない赤で、分丈の袖にはの細が施されていた。肩から提げたバッグも、にした革の名刺入れも、目から見てそれとわかるの級ブランドのものだ。
エリは、名刺を受け取る相の顔をからへと値踏みするように眺めながら、判で押したように同じ言葉を浴びせていた。
「関係で困ったことがあったら、何でも言ってね! パパに直接通しといてあげるから!」
名刺を差しされた同級たちは、苦笑いと媚びの混ざりった卑屈な笑みを浮かべ、何度もペコペコとをげている。
広告
両で押し頂くように受け取られたその名刺には、誇らしげなのロゴが輝いていた。
王。
この県で最規模を誇る第方の名刺だ。エリ自が、父親の威を背にそのに勤務していた。配り歩くに、彼女は自げに甲い声を響かせている。
「本の経営企画部で次やってるの。まあ、実質に全体をかしてるのは私みたいなものだし?」
の同窓会という、純粋に私な交友のに、介の員が自の営業名刺を持ち込み、父親の肩きを盾にして配り歩く。
その景を界の端に捉えた瞬、俺の胃の腑の底で、何かが静かに、しかし決定にえ切っていくのをじた。
俺は、エリの父親をっていた。久隆史。
俺たちがだった当、王の支を務めていた男だ。当は隣のの支に勤務しており、教のでエリは事あるごとにその父親の肩きを誇らしげに吹聴していた。
「うちのパパは支だから。うちのパパに頼めば、何だってい通りなんだから」
その父親が、の歳を経て、取というの最権力者の座にり詰めていた。の事の異だ。当、俺は京のオフィスでいた本経済聞の方経済欄の片隅で、その顔写真入りの記事を読んだ記憶がある。
広告
王は、この方都の経済を牛る、最の融関だ。駅の目抜き通りには、御造りのな本ビルが威容を誇っている。
そして――俺自も、この王には世話になっていた。それも、並抵の規模ではない。
だが、この会に集まった百の誰として、俺が王にとってどれほどのであるかをるはいなかった。
名刺を配り終えたエリの線が、ふとこちらへと泳いだ。入くにち尽くしていた俺の胸元、そこに留められた名札の文字に線が吸い寄せられたのが分かった。
「……あれ? 弘じゃん!」
切り声にい声ががり、周囲にいた数の同級が斉にこちらを振り返った。エリはにした名刺入れの蓋をパチンと鳴らして閉じ、ピンヒールを鳴らしながら、直線に俺のへと歩み寄ってきた。
「うわ、まだきてたんだ! 、誰も連絡つかないって言ってたよ? どこってたの? 京?」
エリは俺の返答を待つ気など毛ない様子で、俺の胸元の名札を指先で弾くように指し示した。
「京で……え、今何してんの? 会社経営?」
エリの線が、名札の文字から俺の顔へ、そして俺が着ているスーツの襟元へと滑り落ちていく。駅の紳士量販で、着目半額のセールで買った吊るしのスーツだ。
仕ての良いを見慣れている員なら、ひと目でそのっぽさを見抜くだろう。