"夫が失明してから、私はもう明かりを消せない" 第2話
肩幅の広い、男の輪郭だった。
弘がをいた。
「薬をんだから、く眠ってる」
掠れた、聞いたこともないほどえ切った囁きだった。
「……でも、昨晩から勘づかれ始めた。今夜は入るな」
昨晩から勘づかれ始めた。
あの、私が怯えていたことを、夫は完全に把握していたのだ。
戸の向こうから、く濁った声が返ってきた。
「分かった」
聞き覚えのある声だった。 どこかで確かににしたことのある男の声。
「……実印の所は分かったのか?」
実印。
シーツを掴む指先に、わず力が入る。
弘はさく首を横に振った。画面のが消える。
「まだ探せてない。ドレッサーの引きしに鍵がかかってる。無理に壊せば気付かれる」
「がねえぞ。あの類の期は来週だ。おが美穂さんを説得できねえなら、印鑑を押して類を揃えるしかねえんだよ」
「分かってる。分かってるから、今夜はもう帰れ」
男の気配が、音もなく廊の奥へと退していった。
昨夜、弘が私の位置を正確に追えた理由が分かった。
あのも、戸はいていたのだ。
廊にっていたあの男が、部の隅にった私の位置を見て、夫に何らかの図を送っていた。 夫はで私を見つめていたのではない。
あの男の「目」を使って、私を捉えていたのだ。
朝。
弘が寝息をて始めるのを見届けてから、私は寝をた。
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玄関へ向かい、駄箱の最段をける。
靴の入れ用具の奥にあるさな箱。 予備として保管してあった、このマンションの鍵。
箱の蓋をけると、鍵の向きが変わっていた。 いつもに向けている持ち部分が、奥に押し込まれている。
棚板のには、乾いたっぽいが、わずかに散っていた。
会社に午休の連絡を入れ、私は区の同庁舎へ向かった。
法務局の窓で、自宅マンションの全部事項証を取得する。
結婚して目に、で組んだペアローン。 名義は私と弘で分のずつだ。 登記簿の権利欄には、まだ見らぬ抵当権などはき込まれていなかった。
そのまま駅の司法士事務所に駆け込んだ。
「奥さん、実印と権利証の管理はどうなっていますか?」
初老の司法士は、私の話を聞いて眉をひそめた。
「ご主が悪質な融業者や配師にみを握られている、委任状を偽造して勝に売却続きをめられる危険があります。から裁判で無効を証できても、活は破綻しますよ」
区役所へり、印鑑登録の廃止続きを取った。 これで私の実印を持ちされても、証を発することはできない。
メインバンクの貸庫を契約し、マンションの権利証と通帳を放り込んだ。
午。
帰宅、夕を終えて寝に入ると、弘はすでにベッドのにいた。
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「美穂、今夜はどっち側に寝てる?」
また、その言葉だった。
私は答えなかった。
壁のスイッチに指をかけ、く押し込んだ。
パチン、と乾いた音が鳴る。
井のシーリングライトが、最量で点灯した。
い暴力なが、部の隅々をのに晒す。
私は引き戸を力任せに閉め、サムターンを回して鍵をかけた。
弘の体が、ねるように張った。
両で顔を覆い、激しく眉を歪める。
「美穂……! 何をするんだ、眩しいじゃないか!」
私は腕を組み、え切った目で夫を見ろした。
「眩しい?」
弘のきが止まる。
「、医師は何て言った? 覚の完全な喪失。暗の識別すら失われているって、診断にもいてあったはずよ」
静まり返った部で、LEDの微かな唸りだけが響く。
「目が見えないあなたにとって、真っ暗だろうと真昼のようにるかろうと、関係ないはずよね」
歩、ベッドへづいた。
「どうして眩しがるの? どうして気を消したがるの?」
「それは……皮膚が、をじて……」
「嘘をつかないで」
言葉を遮った。
「部がるいと、困るからでしょう?」
夫のにち、焦点のわないその瞳を見据える。
「かりが点いていたら、あの男が廊から入ってこられないものね」
弘の喉仏が、きくした。
額からたい汗が噴きし、頬を伝ってシーツに落ちていく。
「……何のことだか、分からないよ」
「そう。なら、このままでいいわね」
私は自分のベッドに入り、布団をかぶった。