"百日祝いを門前払いされた娘に、24年後届いた祖母の手紙" 第5話
何も答えられないのだ。
目のにいるこの老は、会わなかった孫を「していた」と涙を流しながら、私の現実の輪郭など何つらない。 ろうともしてこなかったのだ。
祖母の線から逃れるように、私はふと壁際のサイドボードに目をやった。 そこに飾られた何枚もの写真てが、私の目にび込んできた。
まもない男の赤ん坊の写真。 の袴姿。 名私学の制を着た男の子。 成式でスーツを着て笑う、父親によく似た青。
どれもこれも、同じ男の子の写真だった。 サイドボードの段には、分い革張りのアルバムが何冊も几帳面に並べられている。 背表にはの箔押しで、『悠』と記されていた。
佐久悠。 私よりヶ遅れてまれた、父の再婚相との子ども。 私の異母弟。
このには、彼のが、余すところなく完璧に記録されていた。 も、も、も、すべて彼だけに注ぎ込まれてきた証拠が、部に満ち満ちていた。
そして、私の記録は――あの切り貼りされた、っぺらな偽物の写真が枚あるだけ。
喉の奥に苦いものがせりがってきた。 私はちがり、会釈をした。
「お茶、ごちそうさまでした。急にお邪魔してすみませんでした」
「あ、待って、灯ちゃん! 来のお誕会には来てくれるわよね? 悠も、しいお母さんも、みんな待っているのよ?」
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祖母がすがるように伸ばしてきたを、私は静かにかわした。
「考えさせてください」
逃げるように玄関をて、扉にをかけた、そのだった。
「あら?」
背から、し甲い女性の声が響いた。 振り返ると、買い物袋をげた代半ばほどの綺麗な女性が、怪訝そうに私を見ていた。 父の従姉妹にあたる、所にむ叔母だった。 幼い頃、母から見せてもらった親戚の名簿に顔写真が載っていたのを、私の記憶が瞬に引き当てた。
「あなた……もしかして、灯ちゃん?」
「……はい。川灯です」
叔母は目を見き、それからパッと顔を輝かせて駆け寄ってきた。
「まあ! やっぱり灯ちゃんね! きくなって……まあ、なんて派なお嬢さんになって。修司さんから話は聞いていたけれど、本当に見違えたわ!」
叔母は私の両肩にを置き、底嬉しそうに目を細めた。 その瞳に宿る温もりは、祖母のそれとは違い、純粋な善に満ちているように見えた。 だからこそ、胸がざわついた。
「叔母様……ご無汰しております」
「ううん、私なんて何もしてあげられなかったのに。でもね、灯ちゃん。あなたが無事にあの私学に入学できた、叔母さんもしだけど、お祝いを修司さんに託したのよ。ちゃんと役にったみたいで、本当によかったわ」
背筋に、氷を流し込まれたような悪寒がった。
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やっぱりだ。 父は、親戚に嘘をついて、を巻きげていた。
私が息を詰めていると、叔母は私の顔を覗き込み、ふと配そうに眉をひそめた。 そして声をワントーン落とし、周囲を気にするようにして私のをギュッと握りしめてきたのだ。
「……でも、灯ちゃん。体のほうは、もう丈夫なの?」
「……え?」
「修司さんから聞いたのよ。若いのに、本当に変なことになっちゃって……。来の澄さんののお祝いの席でね、親戚同から灯ちゃんへ『特別支援』を渡す段取りになってるから。みんなでおしって、ちゃんとまとまった額を用するからね。だから、治療、諦めずに頑張るのよ?」
臓が、ドクンと激しくねがった。
……治療? 特別支援?
私が、何の治療をしているというの? 健康診断でもオールAの私が、体、何の病気で親戚からを恵んでもらうことになっているの?
「叔母様、それは――」
問い質そうとした私の言葉は、ガサリと音をてていた玄関のドアによって遮られた。 見送りにいてきた祖母が、扉のにつ私たちを、青ざめた顔で見つめていた。
祖母の乾いた引き戸の音が、宅の沈黙に気に響いた。
扉ので私のを握っていた叔母は、青ざめた顔でちすくむ祖母を見て、ふっと眉を寄せる。
「お義姉さん? どうしたの、そんな血相変えて」
「節子さん……。灯ちゃんを引き止めないでちょうだい。この子も忙しいんだから」