みかん小説
本棚

"百日祝いを門前払いされた娘に、24年後届いた祖母の手紙" 第1話

ポストの投函から、茶い角形号の封筒が半分だけを覗かせていた。

部に入り、靴も脱ぎ切らないまま、差の欄に目を落とす。

達な、けれどどこか微かに震えた跡。 『佐久澄』

喉の奥が、ひやりとたくなった。 に私と母を捨てた、父方の祖母の名だった。

靴を脱ぎ捨て、首のバッグを廊のに置いた。 部のかりもつけないまま、キッチンのカウンターに寄りかかって封筒に指をかける。

糊付けされた封を剥がすと、から便箋が枚と、に挟まれた枚の写真が滑りしてきた。

の文字は、品な青いインクで綴られていた。

『灯さんへ 突然のお、許してくださいね。 私も今でを迎えます。 命のあるうちに、どうしても度だけ、私のい初孫であるあなたに会いたいのです。 同封した写真を見てください。 あの百祝いの、私たち族がどれほどあなたをし、祝福していたか。 昔のき違いは、どうかに流してください。 のお祝いの席で、元気な顔を見せてくれることをから祈っています』

写真を裏返し、表を向けた。

息が止まった。

そこには、ヶほどの赤ん坊を抱いた若い母が写っていた。 赤い祝い着。には派な塗り物の祝い膳。 そして母と私の周りを、満面の笑みを浮かべた父、若きの祖母、そして親戚たちがぐるりと囲んでいた。

広告

父は誇らしげに赤ん坊のにを添え、祖母は目を細めて母の肩を抱いている。 誰もが幸福そうに、レンズの向こうに向かって笑いかけていた。

臓が、の奥でドクンと嫌な音をててねた。

……え、待って。 どういうこと?

私の記憶にある母の話と、目のの景が、あまりにも激しくい違っていた。

母は昔から、私に嘘をつくようなではなかった。 父との婚の経緯を聞いたも、憎しみをぶつけるのではなく、事実だけを淡々と教えてくれた。 その母が、かつて度だけ、押し殺した声で言ったことがある。

「あなたの百祝いの、お父さんも、あっちのお義母さんも、誰も来なかったのよ」

なのに、この写真は何? こんなにたくさんのたちが、私のために集まって、笑っている。 母は、私に嘘をついていたの? それとも、私のらない何かが――。

指先が微かに震えるのを止められないまま、私はスマートフォンの通話ボタンを押していた。

分、私は実のアパートのリビングに座っていた。 古い造アパートの居には、実の匂い――乾いた畳と、母が煮た根菜の匂いが静かに漂っている。

母はと写真を受け取ると、ダイニングの蛍灯の真にった。

分。 分。

母は微だにしなかった。 ただ、写真を見つめるその横顔から、サーッと血の気が引いていくのが分かった。

広告

唇がくなり、握りしめた写真の端が、微かにクシャリと音をてる。

「……お母さん?」

恐る恐る声をかけると、母はゆっくりと私の方を振り返った。 その目はりでもしみでもなく、信じられないものを見たのような、底えのするをしていた。

「灯、これ……あっちから送られてきたの?」

「うん。今、アパートのポストに入ってた。祖母の親のと緒に」

母はく、く息を吐きした。 それから何も言わずにちがり、寝の押し入れの奥へと向かった。

ガサゴソと物をかす音がして、母が両で抱えて戻ってきたのは、季の入ったクッキーの空き缶だった。 蓋をけると、には古いネガフィルムの袋と、丁寧にパラフィンに包まれた数冊のいアルバムが入っていた。

母はそのから、番古い冊を取りした。 ページをめくり、ある所で指を止める。

「見なさい」

母が机のに置いた写真と、祖母から送られてきた写真を並べた。

息を呑んだ。

写っている母の表。 抱きかかえられた私の角度。 着せられている赤い祝い着の胸元のシワ。 に置かれた、尾付きの鯛と赤飯の祝い膳。

完全に、致していた。 寸分違わず、同じ瞬を切り取ったものだった。

けれど――。

母がした写真の背景には、誰もいなかった。

父もいない。 祖母もいない。 親戚の姿など、すらない。

ただ、畳半の狭いアパートの暗い壁と、母と私のだけ。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: