"ローンを完済した私に、義母は「家なら売った」と言った" 第9話
私は、義母のをゆっくりと、だが確実に振り払った。
「お義母さん。私、自分のを取り戻すことで杯です」
義母の顔が、絶望で歪んだ。
そのの夜、彦が帰宅した。 取りはく、酒の匂いと煙の匂いを充満させてリビングに入ってきた。
義母の姿はなかった。 自に閉じこもり、内側から鍵をかけて息を潜めている。 テーブルのに座っていたのは、私だった。
「……起きてたのか」
夫はネクタイを乱暴にすと、ビジネスバッグから枚のいA4用を取りした。 テーブルのに、滑らせるようにして投げす。
『婚協議(案)』
タイトルを見た瞬、臓がトクンとたくねた。 ついに、来た。
「もう母さんから聞いたんだろ。余計な騒ぎを起こしやがって」
夫はソファにく腰掛け、額を指で揉みながら吐き捨てた。 織に拒絶された母親の醜態に、苛ちを隠せない様子だった。
「でこのの契約は終わる。どのみち、おとはそこまでだ。これにサインしろ」
私は無言で、その類に目を落とした。 印字された条項。
・甲(彦)と乙(澄子)は、協議婚することにする。 ・乙は、本件建物の所権および売却代に関する切の権利を放棄する。 ・甲は乙に対し、解決として壱陌萬円(1,000,000円)を支払う。 ・双方は、本に定めるもののほか、互いに何らの債権債務がないことを確認する。
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百万円。 の私の労働と、毎振り込み続けた万円の対価が、たったの百万円。
わず、乾いた笑いが漏れそうになった。
「……百万円?」
「か?」
夫はたく私を睨みつけた。
「言っておくがな、このの登記簿におの名は度たりとも載ったことはない。名義は俺だ。法律、俺が自分の資産をどう処分しようがおのったことじゃないんだよ」
「私は、毎万円を払ってきたわ。あなたに言われて」
「あれは活費だ」
夫は眉毛ひとつかさずに言い切った。
「夫婦として同居していたの、ただの居費の分担だ。賃貸マンションにんでいたって賃は折半するだろうが。おがローンを払っていたわけじゃない。俺の座から引き落とされていたんだからな」
「よくそんな嘘が平気で吐けるわね」
私はスマートフォンの画面をちげ、夫の目のに突きつけた。 画面にる、先週のメッセージ履歴。
『今で最だからな。万、忘れずに振り込んでおけよ』
さらに遡る。のメッセージ。 『ボーナスだから、今はローンの増額分としてプラス万な』
「活費? あなた、ずっと『ローン』っていて送ってきてるじゃない。、度も『賃』なんて言わなかった。私がローンを緒に返していると信じ込ませて、おを搾取し続けていたのよ」
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夫の顔が、醜く歪んだ。 瞬だけ揺がったが、すぐに居直るように声を荒らげた。
「言葉の綾だろうが! 細かい揚げ取りをするな! とにかく、登記名義が俺である以、売却益はおのものじゃない! 百万円すだけでも、のけだとえ!」
「けですって?」
喉の奥がカッとくなった。 りで界がチカチカと滅する。
「けをかける相を違えているんじゃないの? お義母さんにも同じことを言ったらどう? 百万渡すって騙して、百万しか渡さなかったんでしょう。残りの百万は、どこへ隠したの?」
夫の表が凍りついた。 息が止まったようにを半きにし、濁った瞳を激しく揺らす。
「母さん……あいつ、喋ったのか……」
「ええ。全部聞いたわ。織さんのマンションのエントランスで、追い返されたこともね」
夫はがたっと子を鳴らしてちがった。
「あのバカ女が……! 余計なことばかりしやがって! いいか澄子、これ以俺の邪魔をするなら、百万円すら払わないからな! 着の着のままで追いされたくなかったら、さっさと判子を押せ!」
夫は協議のを私の胸元に叩きつけるように押し付け、寝へとっていった。
元に残された切れ。 破り捨てたい衝を、私は必に抑え込んだ。 証拠だ。 この男が、妻を無文で追いそうとしたかぬ悪の証拠。
翌、私は再び法律事務所を訪れた。 担当の弁護士は、持ち込んだ『婚協議(案)』を瞥するなり、笑を浮かべた。