"彼女は毎日母を世話し、毎週夫と夜を過ごす" 第5話
「……探してみます」
「任の事業所の記録と、ご庭での『申し送りノート』。当のものが残っていれば、しい受け入れ先を探すきな掛かりになりますから」
に戻ると、張り詰めた静寂が迎えた。
母は自のベッドで、処方された頓のせいでい眠りに落ちている。 あの女——奈緒さんが帰ったあとの部には、微かにあの柑橘系のコロンの匂いが残っていた。
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。 消臭スプレーを狂ったように廊に吹きかけてから、私は納戸の奥へ向かった。
段ボール箱が積みがった暗いスペース。 元に積まれていた古い介護関係のファイルを引っ張りす。
半。 昨のことのように、あの夜の気が蘇ってくる。
の。 私は、プロジェクトのリーダーとして阪へ張していた。
成功すれば、社内でも異例の若さで課職への昇が内定していた、私のキャリアの分嶺。 ホテルに着いて、のプレゼン資料を何度も見直していた夜過ぎだった。
スマートフォンが、けたたましく鳴った。
画面には、健司の名。
『お袋が倒れた! 廊で血を流してる!』
を疑うような鳴り声だった。
『おがを空けるからだろ! 何が仕事だ、母親を殺す気か!』
を鈍器で殴られたような衝撃だった。 幹線の始発を待つ、駅のベンチで、震えが止まらなかった。
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自分を責めた。 どうして張なんて引き受けたのか。 どうして母を置いてをてしまったのか。
病院に駆けつけたとき、母はの鎖骨を骨折し、処置のベッドで怯えたように震えていた。 隣にいた健司は、私の顔を見るなり、親族もいる待で吐き捨てた。
『庭を犠牲にしてまで世したいのか? おにはのがないのかよ』
あの言葉が、呪いのように私の胸に突き刺さった。
私は昇を辞退した。 プロジェクトかられ、責任の軽い内勤の事務職へ異を願いた。 私のキャリアは、あの、完全に終わったのだ。
「……あった」
埃を被ったクリアファイルのから、当の類束を引き抜いた。
病院から発された退院証と、当の事業所の連絡票。 そして、母のベッド脇に置いてあった、あの期の『申し送りノート』。
私はリビングのテーブルに類を広げ、ページをめくった。
のページ。
そこには、見慣れた奈緒さんの丸文字が並んでいた。 だが、線が止まった。
『訪問:午330分』
……え?
私は、退院サマリーの搬送記録に目をらせた。
救急隊が現に到着したのは、午342分。 病院への搬入が、午410分。
そこまではいい。 問題は、そのだった。
救急隊の初期評価シートのコピー。 バイタルサインの欄に、信じられない数字が印字されていた。
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『体温:34.8℃』
臓が、ドクンと嫌なね方をした。
……34度8分?
の旬。 うちの廊は確かにえ込む。 けれど、をつけたので、転んで数分で救急を呼んだのなら、なぜ体温が34度台までがるのか。
体温症のレベルだ。
さらに、医師の診断の片隅に、鉛で殴りきされたさな所見。
『の面接触による体温と脱が認められる』
の奥で、何かがグラリと揺れた。
の、面接触?
健司は、あの夜、話で何と言った? 「トイレに起きたお袋が、目ので滑って転んだ」 そう言っていなかったか?
目ので転んだが、どうして体を芯までやすほど放置される?
指先が震える。 私は狂ったように『申し送りノート』のの欄を凝した。
付のの、到着刻。 『午330分』の文字。
よく見ると、ボールペンのインクがそこだけ自然に濃い。 数字のに、修正液で消された跡がある。
窓から差し込む夕に透かしてみた。
い膜の向こう側に、うっすらと浮かびがった元の数字。
『午015分』
……は?
015分? 奈緒さんがうちに来たのは、3半じゃない。 付が変わってすぐの、0過ぎ?
じゃあ、救急が呼ばれるまでの、あの半は何だったの?
母は、どこにいた? 健司は、どこにいたの?
ので、バラバラだったピースが、恐ろしい音をてて噛みい始める。
背筋が、凍りつくようにたくなった。 胃液がの奥まで逆流してきそうだった。