"午前二時、ホテルから部屋を替われと言われた" 第12話
「今、アパートには戻りません。当面は、警察と相談して配する避難用の施設か、セキュリティのしっかりした別のホテルを転々とします」
「業務の方は、ひとまず宅勤務……いや、テレワークに切り替えるか?」
「いえ」
私は首を横に振った。
「自宅の所を特定されている恐れがある以、ででいる方が危険です。は会社にいた方が、まだ監カメラと警備の目があります」
会議を終え、応接をたのは午半を回った頃だった。
自席に戻ると、私のに溜まっていた通関類の決裁ファイルが積みになっていた。現実は、恐怖とは無関係に事務作業を求してくる。私は震える指でマウスを握り、ディスプレイに向かった。
恐怖は、鋭利な刃物のような状態から、じわじわと体を締め付けるい鎖のような覚へと変質していた。
男がいつ、どこから現れるか分からない。
すれ違うスーツ姿の男、エレベーターで乗りわせてくるフロアの社員、ビルのの喫煙所で煙を吸っている男たち――そのすべてが、ハーフリムの鏡をかけているように見えて、線がうたびに臓がねがった。
昼休み。
フロアの照が半分落とされ、社員たちが連れってへていく、私はデスクから歩もけずにいた。コンビニのおにぎりをに運んでも、砂を噛んでいるようでがしない。
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そのときだった。
パタパタとりに私のデスクへづいてくる音がした。
総務部の若い女性社員、林さんだった。彼女は屈託のない笑顔を浮かべ、さなメモ用をに持っていた。
「宮本さーん、お疲れ様です。阪張、変でしたね」
「……あ、林さん。お疲れ様です」
「あのですね、さっきお昼休みの直に、代表話に宮本さん宛てのお話があったんですよ」
私の全の筋肉が、瞬で直した。
「……話?」
「はい。宮本さんのお従兄さんだとおっしゃる方で、フジワラ様という男性でした」
指先から、体温が急速に奪われていくのが分かった。
デスクので、自分の膝が激しく震え始めた。
「……何を、話したの」
私の声が、自分でっていた以にたくかったのだろう。林さんは驚いたように目を瞬かせ、に持っていたメモを胸元に引き寄せた。
「えっ……と、すごく丁寧なじの方で。『理が阪張から戻ったはずなのだが、持病の偏痛が悪化していないか配で話をした。本の携帯がずっと留守になっているので、無事に京の社内に戻っているか確認したい』っておっしゃって……」
「それで? 何て答えたの!?」
私はわず子からちがっていた。類の束がカサリとに落ちた。
フロアに残っていた数の社員が、怪訝そうにこちらを振り返った。
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林さんは私の剣幕に完全に怯え、引きつった声で答えた。
「え、あ……『はい、先ほど無事に戻られて、今はお席にいらっしゃいます』って……あ、でも、ご用件をお伺いしてお繋ぎしましょうかって言ったら、『いや、仕事なら邪魔をしたくないので結構です。元気に社していると分かっただけでしました』っておっしゃって、それで切れました……」
目のが真っになった。
をついたデスクの角が、のひらに痛いくらいにい込んだ。
「……本部から、私宛ての話に関する注喚起は、聞いていなかったの?」
「えっ……あの、私、午はずっと回りで、今さっき戻ってきたばかりで……何も聞いてなくて……」
林さんの目から、みるみるうちに涙が溢れしてきた。
彼女を責めることはできなかった。
相は、あまりにも慣れていたのだ。
鳴り散らすわけでも、怪しまれるような詮索をするわけでもない。「妹を気遣う優しい従兄」の完璧な仮面を被り、極めて自然な常会話の体裁を取って、受付の隙から私の居所という報だけを鮮やかに掠め取っていった。
男は、ったのだ。
私が阪のホテルから逃げし、すでに京の本社ビルのにいることを。
「……林さん、ごめんなさい。あなたが悪いんじゃないの」
私はに散らばった類を拾い集めながら、震える声で言った。
「そのメモ……私にちょうだい」
渡されたメモ用には、丸みを帯びた丁寧な字で、こうかれていた。