"午前二時、ホテルから部屋を替われと言われた" 第7話
「過ぎでした。喉が渇いて、自販コーナーにお茶を買いにたんです。そのとき……その部のに、男のがっていました」
全員の線が野に集した。
「どんな男でしたか? 装や特徴は」
「背格好は……普通です。くもくもない、肉背で、代半か歳くらい。暗いグレーのステンカラーコートを着ていました。髪はくえられていて、鏡をかけていました。の、半分だけ縁のあるような……」
私の記憶の奥底で、さな警鐘が鳴った。
グレーのコート。
くえられた髪。
ハーフリムの鏡。
「その男は、部ので何をしていたんですか」巡査部が問う。
「ただ……っていました」野は震いした。「ドアのにって、じっと部番号のプレートを見ていたんです。私が通りかかったら、すごく自然にペコってお辞儀をして、『妻が寝ているので、起こさないように戻ってきたんです』って、声で言いました。すごく、物腰の柔らかい、優しそうな声でした。だから私、怪しいだなんてわなくて……」
野の呼吸が浅くなった。
「でも、私が自販でお茶を買って戻ってきたとき……清掃用のワゴンが廊の端に置いてあったんですけど、その男の、ワゴンのに隠れるようにして、巡回のリネン係のがエレベーターに乗ってりていくのを、じっと待っていたんです」
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「隠れていた?」
「はい。係のがいなくなったのを見届けてから、ポケットからカードキーを取りして、ものすごく慣れた作で、その部のドアをけました。カチッて音がして、ランプが緑になって……男のはに入って、音もてずにドアを閉めました」
野は両で顔を覆った。
「私、やっぱりおかしいとって……部に戻ってからフロントに話しようとしたんです。でも、もし本当に奥さんで、私の勘違いだったら迷惑になるんじゃないかって迷ってしまって……そうしたら、しして部のでまた音がして。覗き窓から見たら、その男のがエレベーターの方へ歩いていくのが見えました」
野が、顔を覆っていたをろし、私をまっすぐに見つめた。
「あの、部からてきたとき……笑っていたんです」
廊に、苦しい沈黙が落ちた。
「っているでも、焦っているでもなくて……何か、確かめたかったことが確かめられたみたいに、満そうに、の端を吊りげて笑っていました。それを見て、私、本当に怖くなって……それで、フロントに話したんです。そうしたら、入れ違いにあなたがてきて……」
野の証言を聞きながら、私のので、バラバラだったピースが急速に組みわさっていくのをじていた。
落ち着いた物腰。
淀みのない丁寧な言葉遣い。
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「妻」という言葉をごく自然に使い、周囲の警戒を解く技術。
そして、ハーフリムの鏡。
私は震えるでショルダーバッグをけ、スマートフォンを取りした。
パスコードを解除する指が、汗で何度も滑った。
まさか。そんなはずはない。
あの件は、もうのことだ。解決したはずだった。彼女はくへ逃げ、すべては終わったはずだったのだ。
写真フォルダの奥く、非表示アルバムに設定していた古いデータを呼びした。
の、会社の同僚だった野真から、震えるで転送されてきた枚の写真。
『理さん、もし私のに何かあったら、この男の顔を警察に見せてください』
画面に表示されたのは、どこかのファミリーレストランのボックス席で撮られた写真だった。
向かい側に座る男が、カメラに向かって穏やかに微笑んでいる。
仕てのいいシャツ。く刈り込まれた黒髪。な印象を与えるハーフリムの鏡。
藤原健司。
真の夫。
「……宮本さん?」
巡査部が、私の蒼になった表に気づいて覗き込んできた。
「何か、い当たる節があるんですか」
私は画面を警察官に向けた。液晶のいが、巡査部の顔を照らした。
「この男……ですか?」
野が横から画面を覗き込み、く鳴をげた。
「……このです。違いありません。この鏡、このです……!」
も画面を凝し、息を呑んだ。
「フロントに来た男も、この物です……!」
私の喉から、乾いた掠れ声が漏れた。