"「明日から母をやめます」結婚前夜、席次表を消した私" 第15話
「……はい」
から、し掠れた声がした。 ドアを静かに押しける。
午の柔らかなの差しが差し込む個。 ベッドのに、パジャマ姿の奈央が座っていた。 傍らのコットのに、あのさな命が眠っている。
奈央が顔をげた。 私を見た瞬、その瞳が瞬揺れ、すぐにし照れくさそうな、ぎこちない笑みが浮かんだ。
「……お母さん」
「体調は、どう?」
「うん。体痛いけど……なんとかきてる」
私はベッドの脇のパイプ子に腰掛け、持参した袋をサイドテーブルに置いた。
「これ、お祝い。使ってちょうだい」
「ありがとう……けていい?」
奈央はリボンを解き、ブランケットに触れた。 「わあ……すごく柔らかい。ありがとう、お母さん」
そのやり取りは、まるでい親戚か、気の置けない友のように、礼儀正しく、定の距を保っていた。 かつての、互いの境界線が曖昧で、求と犠牲が絡みっていた息苦しさは、そこにはなかった。
コットので、赤ちゃんがフニャフニャとさな声を漏らした。
「抱っこ、してみる?」
奈央が、し慮がちに尋ねてきた。
「いいの?」
「うん。お母さんに、番に抱いてほしかったから」
私はちがり、そっと両を差し入れた。 首の座らない、驚くほど軽くて、驚くほど温かいみ。
腕のに抱きげた瞬、喉の奥がツンと痛んだ。
歳の奈央を、初めて抱きしめたのことが、鮮に蘇る。
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あのも、さくて、壊れそうだった。 私はこの子を幸せにしようと、自分のを全部差しす覚悟を決めたのだった。 その覚悟が、いつのにか互いを縛る鎖になっていたとしても。 注いできたの全てが、無駄だったわけではない。
「……いわね。奈央のまれたと、のあたりがそっくり」
私の言葉に、奈央がさく吹きした。
「お母さん、私のまれたなんて見てないでしょ」
「そうだったわね」
で、さく笑いった。 の棘が、陽だまりののように、音もなく溶けていく瞬だった。
赤ちゃんをコットに戻すと、奈央がベッドので正座をし直した。 そして、俯いたまま、両を膝ので固く握りしめた。
「お母さん」
「なあに?」
「……ごめんなさい」
絞りすような声だった。
「私、ずっと……お母さんが私をしてるなら、私の言うこと何でも聞いてくれるのが当たりだってってた。お母さんがして、犠牲になってくれるのが、私にとっての『母親の』だった。……最だった」
奈央の目から、粒の涙がシーツのに落ちた。
「亮介さんにも、同じことしようとしてた。自分のい通りにならないと、見捨てられたって騒いで、脅して……。私、本当にお父さんと同じ怪獣になるところだった」
「奈央」
「自分で産んでみて、分かったの。この子がこれから育っていくで、私がこの子のために全部を犠牲にして、その代わりにお母さんの言う通りにしなさいって縛り付けたら……どれだけ恐ろしいことになるか」
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奈央は顔をげた。 泣き腫らしたその顔は、結婚式ののヒステリックな女のものではなかった。 のとして、痛みをり、現実を引き受けた、の顔だった。
「私、もう度と、お母さんに無理な求はしない。お母さんのを、私の都で奪ったりしない。……だから」
奈央は呼吸置き、恐る恐る、私を見つめた。
「もし……たまにでいいから。お母さんの気が向いただけでいいから……この子の成を、くからでも見守っててくれる?」
私は、子の背もたれに寄りかかり、静かに微笑んだ。
「ええ。たまにならね。お祝いのとかに、美しいお菓子でも持って遊びに来るわ」
「……うん」
奈央は、底ほっとしたように、涙を拭った。
その、サイドテーブルのの計が、午を告げた。
「あ、もうこんなね」
私はちがり、コートを羽織った。
「亮介さんがもうすぐ来るんでしょ? 私はそろそろくわね」
奈央の顔に、ほんのしだけ名残惜しそうなが浮かんだ。 そして、昔の癖のように、ふとをいた。
「あのね、お母さん。今週末……もし退院したら、亮介さんとお祝いにすき焼きでもしようって話してて。お母さんも、うちに来ない? 亮介さんもお礼言いたいって――」
誘いかけて、奈央はハッとしたようにを噤んだ。 「あ……ううん、無理にとは言わないんだけど……」