"白紙の退職届を突きつけた夫が、3ヶ月後に「頼むから辞めないでくれ」と叫んだ日" 第10話
かつて「女に学歴は」「跡取りの兄をてろ」と実から遇され、自力で介護福祉士とケアマネジャーの資格を取って独した女性だ。
「理恵、遅かったじゃないか」
夫が偉そうに顎をしゃくった。
「ちょうどいい。お、介護の会社やってるんだろ。会社のスタッフを何か、タダでうちに寄こせ。おふくろの入浴と飯の世話だ。内の親なんだから、融通利くだろ」
理恵は兄の顔を瞥もしなかった。
円卓の空いている席に腰をろすと、ブリーフケースのファスナーを引いた。 から取りされたのは、数枚の印刷された類。
トン、とテーブルのに然と並べられる。
「事項説と、自費サービス利用契約よ」
理恵の声は、氷のように滑らかで、切の甘えを許さない響きを持っていた。
「……あ?」
夫が目を丸くする。
「母さんは介護認定の申請すらしてないわね。、包括支援センターに申請をしても、認定結果がるまで最でもヶはかかる。それまでの、うちの事業所のスタッフを派遣する、全額自己負担の自費サービスになるわ」
理恵はボールペンの先で、類の角を指した。
「あたり千百円。朝の起介助と朝、夜の清拭と夕の見守りで、最。額にしておよそ万千円よ。交通費は実費請求。
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内だからって値引きは切しないわ。契約に署名と捺印をしてくれるなら、の朝からヘルパーを配するけれど?」
リビングの空気が、瞬で凍りついた。
義母の顔が、りと屈辱で真っ赤に染まっていく。
「理恵! あんた、実の母親からを取る気なの!? 親孝にも程があるわ! 兄さんの会社が変なに、妹なら無償で助けるのが筋でしょう!」
「筋?」
理恵はややかにを鳴らした。 その瞳の奥に、蓄積された暗い炎が静かに揺らめいていた。
「お母さん、よくそんな台が吐けるわね」
ペンを置き、義母を真っ向から見据える。
「私がをて介護の現で働き始めた、何て言った? 『健の会社の設資が必だから、あんたの貯を貸しなさい』って言ったわよね。円も返してもらってないわ」
「それは……男が事業を興すためだったんだから――」
「兄さんが結婚してこのを建て直すもそう。私の部は物置にされて、実から追いされた。お母さんはずっと、兄さんだけを特別扱いして、私を『都のいいスペア』扱いしてきたじゃない」
理恵の線が、今度は夫へと突き刺さる。
「それだけ優遇されて、親のすねを齧り尽くしておいて、いざ親が怪をしたら嫁に丸投げ? それが無理なら今度は妹の会社の労働力をタダで寄こせ? ……恥をりなさいよ」
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夫の顔が引き攣った。 テーブルをドンと叩き、ちがる。
「妹の分際で、兄貴に向かって偉そうなを利くんじゃねえ! 誰の稼ぎで飯ってきたとってんだ!」
「私の稼ぎよ」
理恵は瞬きひとつせず、兄を射殺すような目で見げた。
「兄さんの会社、ホテルチェーンから契約を切られたんですってね。業界内じゃもう噂が回ってるわよ。請けへの運賃未払いで、トラックの配すらつかなくなってたって。……ねえ、由美さん」
理恵が私に向き直った。その差しには、同と、同じ痛みを通過してきた者特の徹な連帯があった。
「由美さん、絶対に歩も引いちゃダメよ。このたちが求めているのは『族の絆』じゃない。『無料の労働力』よ。度でも折れたら、ぬまで搾取され続けるわ」
「理恵ッ!」
義母が叫んだ。だが理恵は類を枚だけテーブルに残し、残りをくブリーフケースに仕った。
「契約する気になったら連絡して。契約の払いが確認できたら、スタッフをかすから。タダ働きさせる気なら、度と連絡してこないで」
理恵はちがり、私に軽く会釈をすると、度も振り返ることなく玄関へと向かった。 カチャリとドアが閉まる音が、親子の浅ましい期待を々に砕した。
残されたリビングには、荒い夫の息遣いと、義母の悔し泣きだけが漂っていた。
「あいつ……親を親ともってねえ……化物だ……」
夫は髪を掻きむしり、呻くように吐き捨てた。 だが、その背はらかに縮んでいた。