"白紙の退職届を突きつけた夫が、3ヶ月後に「頼むから辞めないでくれ」と叫んだ日" 第3話
「自分が取引を継続できているのは、妻が購買部にいるからだと。そして、その妻を『介護』という美名で庭に引っ込めさせれば、自分は綺麗になって、今も優先に発注をもらえると本気で信じているのよ。男のプライドと欲が透けて見えて、反吐がるわ」
机のの菓子の包みが、まるでゴミのように見えた。
「佐藤さん。会社はね、組織の改編をうわ。来付で、設される『コンプライアンス推・調達ガバナンス班』のリーダーポストを用したの」
ののが、瞬でれていくような覚がした。
「調達ガバナンス班……」
「そう。全社サプライヤーの財務健全性、過の納品遅延率、品質管理体制を完全に数値化し、実の入り込む余を切排除して取引継続の否を判定する部署よ」
美咲部は引きしから枚の類を取りし、私のに滑らせた。 『配置転換内示承諾』。
「条件はつだけ。社内規定に基づき、利害関係者である佐藤商事の審査からは、あなたを完全に『除斥』する。つまり、ご主の会社の類には切触れず、決裁印も押さない。審査は別の、完全になバイヤーに担当させる」
私は類を見つめた。 文字が、黒々と面に刻まれている。
「受ければ、あなたは購買の最線かられ、監査側に回る。ご主の会社を助けることは度とできないし、裏でフォローすることも許されない。
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でも――」
美咲部はを乗りし、私の目を覗き込んだ。
「結婚ののために、のキャリアをゴミ箱に捨てる必はなくなるわ。あなたが庭に引っ込んで、あの男の無能さの代わりになる筋いなんて、どこにもないのよ」
胸の奥く、ずっとたく固まっていた何かが、音をてて砕けた。
夫の鳴り声。 「おのその雀の涙みたいな料で、このが回ってるとでもってんのか!」 義母の蔑むような笑み。 「を守るのが、妻の務めよ」
彼らは私をとして見ていなかった。 都よく事をこなし、親のの世話を引き受け、自分の会社のためにいつでも切り捨てられる便利な駒としかっていなかったのだ。
私はペンをに取った。 指先の震えは、完全に止まっていた。
「……謹んで、お受けいたします」
署名欄に、自分の名を力くき込んだ。
そのの夜、自宅の玄関をけると、リビングから嫌の良さそうな夫のが聞こえてきた。 テーブルのには、コンビニで買ってきたプレミアムビールの空き缶と、焼き鳥のパックが転がっている。
ソファーでテレビを見ていた夫は、私の姿を認めるなり、勝ち誇ったような笑いを浮かべた。
「おう、遅かったな。どうだ、退職届はしてきたか?」
義母も奥のから、引き戸をけて顔をした。
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「由美さん、これからは毎にいてくれるんでしょう? 、病院の定期検診があるから、朝番のタクシーの配と付き添い、お願いね」
の顔を、私は静かに見つめ返した。
「退職届は、していません」
夫のがピタリと止まった。缶をテーブルに置き、眉を吊りげる。
「あぁ? お、まだそんな寝言言ってんのか! 俺が今朝、わざわざおの会社の司に――」
言いかけて、夫は慌ててを噤んだ。 自分が裏で美咲部に接触したことを、私には隠しているつもりなのだ。その浅ましさが、滑稽で仕方がなかった。
「司に、何?」
「……いや、なんでもない。とにかく! おがグズグズしてると、のことも俺の仕事も全部狂うんだよ! 女の分際でを張るな!」
「ではありません。私の仕事ですから」
私はコートを脱ぎ、クローゼットへ掛けながら、背越しに淡々と言葉を続けた。
「それから、来からの母さんの通院ですが。私は休を取れませんので、自治体の齢者活支援窓に相談してください。支援の申請をせば、償の移支援ボランティアが使えます」
「はぁ!?」
から義母が甲い切り声をげた。
「を頼れっていうの!? 嫁のあなたが面倒を見ればタダで済むのに、なんでわざわざ赤のにおを払わなきゃいけないのよ! 健、あんたからも言ってやりなさい!」
夫が顔を真っ赤にしてソファーからちがった。