"夫が私を退職させた翌朝、会社は夫を呼び出した" 第15話
周囲の社員たちは、汚いものを見るような目を向け、に通り過ぎていく。
私は、両で抱えた段ボール箱を持ち直した。 腕にい込む段ボールのみが、私の元を確かに支えている。
廊の真んを、真っ直ぐに歩きした。
にいつくばる健の横を通り過ぎる。
「……ゆ、み……?」
から顔をげた健が、涙とでぐしゃぐしゃになった顔で、私のスカートの裾を見げた。 その瞳に、最の、れなすがるようなが灯る。
「由美……頼むよ……助けてくれ……俺が悪かった……母さんが……俺たちのが……」
伸ばされた健の指先が、私の靴のすぐで虚しく宙を掻いた。
私は、ち止まらなかった。
歩幅を緩めることも、線を落とすこともなかった。 私の目は、ただ真っ直ぐに、たいのが差し込む玄関の自ドアだけを見据えていた。
私のが、に倒れ伏す男の背を静かに踏み越えていく。
、私が捧げてきたのすべてに、今、本当の幕がりようとしていた。
の終わりのは、吐く息がく凍りつくほど寒かった。
製造棟の隅、以は資材の予備置きとして使われていた窓のない部。 しくベニヤ板のドアに掲げられたプレートには、きのような朝体でこう記されていた。
【全プロセス推】
プレハブ特の乾いた埃の匂いと、油ストーブの微かな灯油の匂い。
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それが、のキャリアの果てに私がに入れた、しい居所だった。
「佐藤さん、これ……先週分の調誌のチェックシートです」
おずおずとドアをけて入ってきたのは、奈緒だった。
彼女のには、クリップで留められたいバインダーが握られていた。 かつて私ので笑っていた頃の無邪気さは消え、制の襟元を几帳面に正した姿には、現をで背負わされたのい疲労が滲んでいる。
「ありがとう、さん。そこに置いておいて」
私が顔をげずに言うと、奈緒は机の端に類を置き、そのにち尽くした。
「……あの、佐藤さん」
「何かしら」
「第ライン、今から減産が決まりました。スーパーとの契約が本、になったせいです。現のパートさんたち、今期の寸志がないって聞いて……更で、みんな佐藤さんの悪を言っています」
奈緒の声は、責めるを含んでいなかった。 ただ、現実のみに押し潰されそうな鳴にかった。
「私が……あの、USBを提しなければ、ここまで事にはならなかったんじゃないかって。田島を辞めさせずに、内々で処理していれば、現のがこんないをしなくて済んだんじゃないかって……そううと、私……」
私は元の赤ペンを置き、ゆっくりと奈緒の顔を見つめた。
「さん」
「……はい」
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「もしあのまま荷していたら、何が起きていたとう?」
奈緒の喉が、さくした。
「全国で何万本というタレが卓に並んで、そのうちの何かの子供が呼吸困難で救急で運ばれていたわ。回収費用は億単位。会社は営業止処分を受けて、パートの寸志どころか、そのものが倒産していたはずよ」
私は机のに置かれた、私がからき直した『原料受入れ・次承認規程案』を指先で叩いた。
「正しい判断をしたからといって、全員から謝されるわけじゃないの。痛みを伴う決断をすれば、まれるのは当たり。それを背負う覚悟がないなら、品質管理の責任者なんて最初から引き受けちゃダメよ」
奈緒の目から、ぽろりと涙がこぼれ落ちた。 だが、半のように取り乱して泣き叫ぶことはなかった。 彼女は自分の袋をした指で乱暴に涙を拭い、くをげた。
「……申し訳ありませんでした。チェックシート、までに再点検して持ってきます」
奈緒が部をていく音は、以よりもずっとを踏みしめるようにく、確かだった。
私は再び赤ペンを握り、類に目を落とした。
格。役職当の全額カット。半の減〇パーセント。 周囲からのややかな線と、すれ違いざまの舌打ち。
すべて、私が半につけたのの代償だ。
甘んじて受ける。 誰のせいにもしない。 自分で蒔いた種を自分で刈り取っているという実だけが、私の背骨を真っ直ぐに支えていた。