"夫が私を退職させた翌朝、会社は夫を呼び出した" 第14話
ガラス扉の向こうで、健が濡れたでガラスを激しく叩いていた。 エントランスのかりに照らされたその顔は、りと恐怖で醜く引きつり、まるでからいがろうとする者のようだった。
自ドアが閉まり、男の喚き声はの音のへと遮断された。
私は度も振り返らず、エレベーターのボタンを押した。 指先はえ切っていたが、取りは議なほど軽かった。
翌週の曜。
の第会議のには、総務部と法務部の社員が々しい顔でっていた。
朝。 全社に向けた緊急の社内報がイントラネットに流れた。
『商品「熟成旨み醤油だれ」における原材料調達プロセスの備、ならびに特定原材料混入リスクに関する社内調査報告』
製品は全量廃棄。 発売は無期限の延期。 そして――。
『田島正彦を、業務背任の疑いおよびハラスメント規定違反により、本付で懲戒解雇処分とする』
さらに、社内ネットワークへの正侵入および虚偽の退職願送信事案については、部関係者(佐藤健)による正アクセス禁止法違反の疑いとして、所轄の警察署へ正式に告訴状を提した旨が記されていた。
午。
私は総務課で、自分の名札とロッカーの鍵を返却する続きを終えていた。
私の処分も、正式にりていた。
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【管理職権限の剥奪、主任から般職への格、ならびに半の減〇パーセント】
のキャリアで積みげてきた肩は、すべて消えた。 からは、設される『全プロセス推』という、プレハブのようなさな部署で、現のチェックシートを枚ずつ作業で点検する仕事に回される。
だが、私のに悔いはなかった。 自分の犯した罪の代償を、自分の与とで払う。 それは、のを担保にして逃げ回る健や田島とは違う、私が選び取っただった。
デスクのの私物を詰めた段ボール箱を抱え、私が総務部の廊を歩いていただった。
廊の突き当たり、来客用ベンチのに、数のがあった。
「……ですから、警察の方には私からすべて事を説します! 田島さんに指示されたんです! 俺は被害者なんです!」
に額を擦り付けるようにして叫んでいたのは、健だった。 数よりもさらに痩せこけ、作業着の膝は擦り切れ、異様な悪臭を放っている。
彼のには、ミツワ品の顧問弁護士と、本社総務部が然とちはだかっていた。
「佐藤健さん。あなたの会社が田島と交わした私なメモ、ならびに正アクセスのログデータは、すべて警察に証拠提済みです。今さら状酌量を求められても、当社としては法続きを取りげる理由はありません」
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「そんな……! の形が落ちなかったんです! 今、うちのは倒産したんですよ! これ以、俺から何を奪う気ですか!」
健の声は、絶望で裏返っていた。
その、総務部の応接のいドアがき、からの男がてきた。 私物を通勤鞄に詰め込み、警備員に両脇を固められた田島だった。
かつての傲なの面は消え失せ、髪は乱れ、ネクタイはされ、目はのように濁っていた。
「……田島さん!」
にいつくばっていた健が、田島の元にすがりつこうとした。
「田島さん! 助けてください! あんたがやれって言ったんじゃないですか! あんたのために、俺は嫁も会社も全部失ったんですよ!」
田島は、すがりついてくる健のを、汚物でも払うかのように靴底で乱暴に蹴りばした。
「触るな」
く、骨の髄まで凍りつくような声だった。
「おみたいな無能な男と関わったのが、私の最の汚点だ。……社員の端末に勝にログインして偽造文を送るなど、劣な犯罪者のやることだ。会社は刑事告訴を取りげないそうだよ。せいぜい、刑務所ので自分の無能さを呪うんだな」
田島は唾を吐き捨てるように言い放つと、警備員に促され、エレベーターホールへと消えていった。
「あ……あああ……っ!」
健はたいリノリウムのに突っ伏し、獣のような呻き声をあげた。
誰も、彼にを差し伸べる者はいなかった。