"夫が私を退職させた翌朝、会社は夫を呼び出した" 第9話
私は義母の顔を真っ直ぐに見据えた。
「血の繋がった親子なんですから、それが番自然でしょう」
「ふざけるな!」
健が類をひったくり、目ので破り捨てようとした。 だが、類の端に印字された政士の職印と、内容証郵便の送達予告の文字を見て、そのが止まった。
「てけるわけがないだろ! おなんかに部を借りる保証がいるのか!? 敷も礼も払えやしないくせに!」
「URの公団宅を、単用で仮押さえしました。保証はです。私の名義と預だけで即入居できます」
健の顔から、急速に血の気が引いていくのが分かった。
私は階の寝から、昼の勤にあらかじめ玄関の物置に隠しておいたつのスーツケースを引きずりした。 には、私のと、母の通帳、そして分の業務誌のバックアップが入っている。
玄関のドアをけると、夜のたい空気が肺の奥まで流れ込んできた。
「おい、待てよ! 由美! 本当にてくのかよ!」
健が裸のまま玄関のたたきにりてきた。 その声には、先ほどまでの威圧はなく、元が崩れ落ちるのをじたの、醜い焦燥が混じっていた。
「俺の会社はどうなるんだよ! ラインがかなきゃ、本当に渡りがるんだぞ! お、族を殺す気か!?」
私は振り返らなかった。
広告
「自分の会社のリスクは、自分で取ってください。のを担保にしてき延びるのは、もうおしまいです」
ガチャリと、鍵を閉める乾いた音がした。 背から、ドアを激しく叩く健の鳴り声と、義母のヒステリックな鳴が響いたが、度と振り返ることはなかった。
駅へ向かう夜。 スーツケースのキャスターが、アスファルトのでガラガラとい音をてる。 袋をしていない指先が痛むほどたかったが、胸の奥には、奇妙なほど澄み渡った静寂が広がっていた。
翌朝、午。
私はの通用ではなく、駅から発する本社きの速バスに乗っていた。
き先は、京都千代田区。 株式会社ミツワ品・本社コンプライアンス法務統括部。
の敷内で戦っても、田島のの平ので転がされるだけだ。 田島が恐れているのは、現の騒ぎではない。 本社の監査と、監督官庁――消費者庁への報告義務。
バスの内で、私は元のノートパソコンをいた。 昨夜、の退勤直に、自で徹夜で仕げた文。
『自己申告および内部通報』
私はそこに、自分自の罪を、文字も誤魔化さずにき連ねていた。
【半の試作段階において、追認類の受領を怠り、条件付き承認印を易に押印したこと】 【品質管理責任者としての職務怠であり、社内規定違反に対するいかなる懲戒処分も甘受する所であること】
広告
自分の過ちを認めることは、のキャリアに自らを塗ることだった。 減、格、あるいは懲戒解雇。 どんな処分がされても文句は言えない。
だが、私はそのに、昨夜から今朝にかけて部の民検査関に緊急で持ち込んだ、サンプルのスクリーニング結果を添付した。
画面をスクロールする。 検査関から速報値として送られてきた、本のグラフ。
オニオンエキスのロット番号:OE-9920。 ピーナッツタンパク質抗体反応:陽性(微量検)。
臓が、たくねがった。
……やっぱり。
価な輸入原料。 アジアの混載プラントで、ピーナッツオイルの搾油ラインと同じ配管を使って製造されていたのだ。 成分表には『オニオンエキス、塩』としかかれていない。
もし、このまま『熟成旨み醤油だれ』が全国のスーパーに並んでいたら。 アレルギーを持つ子供が、でもにしていたら。
喉の奥がくなり、奥歯がガチガチと音をてた。
私の怠のせいで、あともう歩で、取り返しのつかない劇が起きるところだった。 健の段ボールのためでも、田島の世のためでもない。 私は、この罪を、自分ので終わらせなければならない。
午分。
本社の無質な層ビルの受付を通り、私は階の法務統括部のドアをノックした。
部の奥からてきたのは、コンプライアンスの初老の男性と、法務担当の弁護士だった。