"夫が私を退職させた翌朝、会社は夫を呼び出した" 第5話
健の線が、わずかに泳いだ。
「そ、それは……田島さんが『奥さんさえ納得させれば、納品は問題なく通る』って言うから……」
「だから、私の退職願を勝に送ったの?」
私は健の目を真っ直ぐに見据えた。 逃げを塞ぐように、歩詰め寄る。
「私のパスワードを盗んで、私の名で嘘のメールを送り、私を会社から追いそうとした。私が品質管理をれれば、田島部は自分の息のかかった輩にサインをさせて、問題のある商品をそのまま世にせるから」
「仕方がなかっただろ!」
健はき直ったように唾をばした。
「うちの会社が潰れたら、俺たちの活はどうなるんだ! 母さんの面倒は誰が見るんだ! たかが調だれの握りのアレルギー表示くらいでガタガタ騒ぎやがって! 誰もにゃしねえよ!」
誰もなない。 品を扱うが、絶対ににしてはならない言葉。
私の胃の奥から、黒くたい汚のようながせりがってきた。 りではない。 この男に対して、抱き続けてきたわずかなけや義理が、完全に消滅した瞬だった。
「ぬかもしれないのよ」
私の静かな声に、健が息を呑んだ。
「微量のアレルゲンでも、アナフィラキシーショックを起こせばはぬの。その恐怖を毎抱えながら、裏面の表示を必で確認して買っていく親御さんがいるの。
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あなたは、自分のの百万円のために、そのたちの命を秤にかけたのよ」
「綺麗事言ってんじゃねえよ!」
健は顔を真っ赤にして鳴り散らした。
「おが偉そうに仕事できるのは、俺が今まで養ってやったからだろうが! 女の分際で夫のメンツを潰して、会社まで巻き込んで……ただじゃ済まさないぞ! 絶対に婚してやる! 円も財産分与なんて渡さないからな! 母さんを泣かせた報いを受けさせてやる!」
健の吐き捨てるような台が、荷ヤードの井に反響した。 周囲の作業員たちが息を呑み、気まずそうに目を逸らす。
私は、ゆっくりと首を横に振った。
「婚なら、望むところです」
「……は?」
「あなたの会社がどうなろうと、もう私には関係ありません。今すぐここからてってください。なければ、警備員を呼んで建造物侵入で警察に通報します」
私の瞳に宿る、片の揺らぎもないを見て、健は気圧されたようにずさりした。 これ以騒げば、本当に警察を呼ばれると悟ったのだろう。
「……悔するなよ。おなんか、会社を辞めたらただの過ぎのき遅れ主婦だ。誰もおなんか必としないからな!」
健は捨て台を吐き、粗暴に踵を返して通用へとりでっていった。 バン、とい鉄の扉が閉まる音が響く。
私は、張り詰めていた息をく吐きした。
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膝が微かに笑っていたが、背筋だけは絶対に曲げなかった。
午。
品質管理に戻ると、部のの空気がく淀んでいた。 普段なら器の測定音やタイマーの子音がリズミカルに鳴り響いているはずの実験台が、気なほど静まり返っている。
荷止の煽りを受け、第製造ラインはすでに止していた。 パートの従業員たちは自宅待を命じられ、現のリーダー格の社員たちは、私に対して骨にたい線を投げかけていた。
「佐藤主任、本当に止めなきゃダメだったんですか」 「今の分の残業代、どうなるんですか」
すれ違いざまに聞こえる、さな呟き。 かけて築いてきたはずの信頼関係が、たった半の荷止で、氷のように軋み始めている。
私が正しいことをしているはずなのに。 会社を守り、消費者を守るための当然の判断なのに。 現にとっては、私はただの「急に騒ぎてて皆の仕事を止めた厄介者」でしかなかった。
私は自分の席に座り、パソコンの画面をいた。 原料の過のトレースログ、輸入通関類の履歴を件ずつ洗っていく。 どこかに、この原料の全性を証できる抜けはないのか。 あるいは、田島が図に隠蔽している致命な欠陥があるのか。
コツ、コツ、と静かな音がづいてきた。
顔をげると、を着た若い女性がっていた。 奈緒。歳。
、彼女が途で入社してきたから、私が取り取り品質管理の基礎を叩き込んできた輩だった。